マツバノタマバエの生態学的研究 第1報

生活史特性

曽根晃一

   要旨

 アカマツ・クロマツの重要な害虫のマツバノタマバエ(Thecodiplosis japonensis UCHIDA et INOUYE) は,これまでにわが国や韓国で大発生を繰り返し,多大な被害を与えている。本種の有効な防除法確立のため個体群動態特性の解明が急がれている 状況下で,これらの基礎となる本種の生活史・生態の調査を,1975年から1982年にかけて京都大学農学部附属演習林上賀茂試験地内のクロマツ若齢 林を中心に行った。本種は一生を通じて,土壌中一空中一寄主植物葉上・葉内一土壌中という一連の生息場所の変化を示した。3齢幼虫は晩秋から 冬にかけて虫えいから脱出し,地上に落下した。本種の虫えい脱出は,虫えい内の環境の悪化と関係があると考えられた。また,生活史において完 全に自由生活(free-living)を行うステージは,羽化から針葉に侵入するまでの1週間あまりと大変短かった。羽化の雌雄同調性は高く,成虫が羽 化してくる頃には,ほとんどすべての当年生針葉は,産卵対象になるまで展開していた。蔵卵数は平均で150〜170卵と多く,活力のあるメスは,卵 巣内のほとんどすべての卵を産む能力を持っていた。これらのことから,本種の潜在的増殖力は高いと考えられた。しかし,成虫の飛翔・産卵活動 は,天候・風・温度などの非生物的要因に影響を受けやすいと推察された。本種の移動・分散は,成虫期と3齢幼虫の虫えいからの脱出後にみられ た。しかし,本種の自力による分散能力は低く,林分間の移動のような長距離の移動・分散は,風などの要因による可能性が高いと考えられた。

   −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
     森林総合研究所ホームページへ