森林変化の流出に及ぼす影響の流出モデルによる評価

谷  誠,阿部敏夫

   要旨

 森林変化が流出に及ぼす影響を単独流域法によって 解析するためには,気象条件から流出量を推定する必要がある。この推定にあたり,従来 の回帰方程式を用いる方法よりすぐれた流出モデルを用いる方法を試みた。モデルの検討 は林業試験場岡山試験地の竜の口山森林理水試験地の南谷における松枯れの流出への影響 を事例として行った。流出モデルとしてタンクモデルを採用したが,土壌氷分を十分に表 せるように改良した。このモデルに入力する蒸発散量は,ペンマンの可能蒸発量に一定比 0.9を乗じた値とした。松枯れ以前の基準期間において,流出モデルで計算された流出量は 観測流出量とよく一致した。そこで,松枯れ以降の期間について,もし松枯れが生じなかっ たとした場合の流出量を流出モデルによって計算して観測流出量と比較し,松枯れによる 流出変化を推定した。松枯れ前および松枯れ後の日流出量をそれぞれQb,Qb′とすると, 日流出量の変化は,
   Qb′/Qb=1.532Qb-0059
で表され,松枯れによって日流出量が増加すること,その増加の割合は,流出量が大きくな るほど小さくなることがわかった。次に,流出モデルによって観測日流出量がよく再現でき た結果に基づき,真値の推定が難しい流域蒸発散量についての考察を行った。その結果,水 収支に基づいて推定された流域蒸発散量は,この流出モデルで推定された流域内貯留量が減 少するとき過小に,増加するとき過大になる傾向があり,それによる誤差が年量や季節変化 に無視し得ない影響を与えることがわかった。

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   −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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