組織培養法を用いた林木の不定的器官の発生促進に関する研究

石川広隆

   要旨

 針葉樹を主体に,林木のカルスと器官を培養し,不定芽不定根を 発生させて幼植物体を得た。このことによりバイオテクノロジーを用いた林木の大量無性繁殖技術の基 本的操作を開発することができた。
 林木のカルス培養と不定根形成:カルスの人工培養法とカルスからの幼植物体の発生を調べた。この 試験ではストロ一ブマツ,スギ,キリ,の3種を材料としてカルスを形成させたが,不定芽の発生は見 られなかった。不定根については,スギのカルスをα−ナフタレン酢酸(NAA)と6−ベンジルアミノプ リン(BAP)を培地に同時添加したときに発生することを観察した。またニセアカシアとアカマツの幼 苗根端を培養したが,不定芽形成は困難であった。
 林木茎頂培養の試み:スギ成木の茎頂や,スギとヤマモモの幼苗の茎頂を培養して幼植物体を得るこ とを試みた。幼苗の茎頂培養では簡単に幼植物体が得られたが,成木の場合には,いったん小枝を培養 し,その葉腋から出現した潜伏芽を切りはなして移植する方法が効率が良かった。
 針葉樹の胚軸等の培養における不定芽・不定根の人為的発生促進:スギ,ヒノキ等の子葉,胚軸,幼 根を培養しながら新しい生長調節物質による不定芽・不定根の発生促進効果を試験した。胚軸培養によ る場合のみ不定芽・不定根の発生が見られたが,不定芽発生についてはBAPの効果が高かった。アブシジ ン酸(ABA),モルファクチンの効果についても検討した。不定根の形成促進については,インドール‐ 3‐酪酸(IBA),NAA,2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)3種とも効果があり,IBAはスギ,ヒ ノキ両種に効果を示したが,2,4−Dはヒノキについてのみ高い効果を示した。クロマツとアカマツの胚 軸培養ではBAPの効果は不明であったが,ABAを含む培地でクロマツ胚軸上に不定芽が発生した。

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   −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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