マツバノタマバエの生態学的研究 第2報

低密度個体群の個体数変動と分布様式

曽根晃一

   要旨

 1975年から1982年にかけて,京都大学農学部附属演習林上賀茂試験地内のクロマツ若齢 林で,マツバノタマバエ(Thecodiplosis japonensis UCHIDA et INOUYE) の個体数変動と死亡要因を調査し,6世代の生命表を得た。また,1978年から1979年にかげて滋賀県田上山系のクロマツ若齢 林で,空間分布様式を調査し,あわせて1世代の生命表を作成した。
 いずれの世代でも,個体数は虫えい形成前と虫えい脱出後羽化までの間に著しく減少し,虫えい内に生息している期間は ほとんど減少しなかった。そして,生存曲線は階段状を呈した。調査期間を通して,個体数は低レベルに抑えられ安定して いた。個体数の低レベルへの抑制は,著しく個体数が減少した成虫の羽化から虫えい形成までと3齢幼虫の虫えい脱出から 羽化までの期間に作用する,気象要因の変動などの非生物的要因によったと考えらえた。
 生命表解析の結果,個体数変動は,野外での成虫の産卵の成否により決定されていたことが明らかになった。本種の野外 個体群はよく制御されていた。しかし,有力な制御要因は検出されなかった。それゆえ,本種の個体群は,複数の要因の組 み合せにより制御されていたと考えられた。
 林内での空間分布様式は,すべての発育ステージで集中傾向を示し,この集中的な個体の空間配置は,著しく変化するこ となく次世代に伝えられた。今回得られた本種の集中的な分布傾向は,林内での集中的な成虫の羽化とふ化幼虫死亡のクロ マツ個体内,個体間の変動と関係し,生活史を通しての小分散は,集中的分布傾向の保持,伝達に重要な役割をはたしてい たと考えられた。

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   −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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