(研究資料)

ラジアタマツ合板の曲げ強度と節径比の関係(英文)

平嶋義彦

   摘要

 合板は構造的利用の分野においても,古くから幅広く用いられてきた。最近は,合板用原木の供給の逼迫化に 伴い,北米等においてウエハーボードや配向性ボードといった新しい構造用パネルが開発されつつあるが,性能等の面で合板を超えるものはなく, わが国においては,やはり合板がパネル材料としての主流を占めている。
 現在,わが国で生産される合板およびわが国で利用される合板の大多数は東南アジア諸国産の広葉樹材を原木としたいわゆるラワン合板である。 しかし,将来の原本事情等を考えるとき,ラワン類以外の木材も検討する必要があるであろう。
 特に,針葉樹合板については,わが国では,あまり製造実績や使用実績はないが,他の国においては盛んに使われているものであり,また将来, 原木を造林木に頼るとするとそれは針葉樹であると考えられるので,わが国においても今のうちから検討しておく必要があると思われる。
 針葉樹合板は,わが国で現在広く使われているラワン合板とは異なり,一般に表面に節が多く存在する。したがって,合板,特に針葉樹合板の強 度性能を考える際には,この節の影響を考慮しなければならない。
 従来の合板強度に関する研究は,節のない小試片の合板強度を基にして,節の大きさ等で強度逓減率を推定する方法が多かった。しかし,この方 法では,節以外の因子による影響が捉えられず,実大の合板の強度データのばらつきには対処できなかった。
 そこで,最近では,実際に節を持った大型の,時には実大の曲げ試験を行い,そのデータを統計的に処理して合板の許容応力度等を誘導すること が行われるようになってきた。
 本研究は,将来のわが国の合板原木として期待されるラジアタマツを使った合板について,実大またはそれに近い寸法で行われた曲げ試験データ を収集し,それを統計的に解析したもので,合板の強度または剛性と,密度,節径比等との関係について論じている。
 試験データ,試験方法
 収集したデータは六つの報告=3)〜8)に含まれる10種類(Table1,2,3)である。ラジアタマツ原木はニュージ ーランド,オーストラリアおよびチリー産である。試験されたパネルの寸法は,330mm×686mmから1200mm×2400mmに及んでいる。
 無欠点材部の特性値
 無欠点材部の曲げ破壊係数(MOR//),曲げヤング係数(MOE//),密度といった特性値もデータ間で大きな開きがある (Table 3)。
 ここで無欠点材部の特性値は,合板の厚さおよび単板構成による影響を無くすため,次のような式から求めている。
MOR//=MORAPPARENT(T///TP)/0.85 MOE//=MOEAPPARENT(T///TP)  ここに添字‘APPARENT’は,全断面を対象としたみかけの特性値,TPは,平行層のみの断面2次モーメント,0.85 はFREAS9)の与えた実験定数(Kファクター)である。
回帰分析から,無欠点合板のMOR//は,無欠点本材のそれより約30%低い結果が得られている(Fig.1)。この図は又,密度は合板強度のあ まりよい推定因子ではないことも示している(決定係数0.31)。
 これらの一つの理由としては,表面単板の早材部の影響が考えられる。早材部の出現は,確率的なものであり,これが強度の低下原因となり,又強度 と密度の相関を悪くしていると考えられる。
 MOE//と密度の関係は,木材のそれとよく似た関係にある(Fig.2)。
 強度と節径比
 種々の強度特性の回帰分析結果をTable 4に示す。回帰係数のうち,いくつかは,有意差のあるものがある。データ間の試験法の違いを,この原因の一 つに数えることができると思われる。
 Fig 3は,最大曲げモーメントと節径比の関係を示すもので,右下りの傾向をあらわしている。
 Fig 4は,合板の厚さと単板構成の影響をなくしたMOR//にしたものである。この図およびTable 4から,POSTによって 試験された15.9mm厚,5プライ合板は回帰直線の傾斜が緩く他のものと違った様相を示していることがよみとれる。これは,材料がチリー産であることに 起因しているためなのか,試験方法が実大合板の曲げによるためなのか,あるいはその他の理由によるものなのか,ここではそれを判断する資料に乏しい。
 Fig 5は,合板の強度を,無欠点材部の強度に対する比で表したもので,ここにおいて合板の厚さ,単板構成,無欠点材部強度の影響を除いたものとなっ ている。データは幅広く散らばっているがそれぞれの回帰直線はほぼ似たものとなり,傾きの有意差検定で差のあるものは一つだけであった。節が強度に 与える影響は非常に大きいことが,この図から看取される。全データの回帰直線によれば,節径比が例えば0.5のときは強度比は38%である。
 剛性と節径比
 Fig 6は,曲げ剛性と節径比の関係であるが,相関関係は低く,節径比が剛性に与える影響は少ないことを示している。
 このことは合板の厚さや単板構成の影響をなくした値MOE//(Fig 7)やさらに材質の影響をなくした値Stiffness ratio(Fig 8)においても看取される ところである。
 強度と剛性
 MOR//とMOE//に関しては,実大合板の純曲げ試験結果より得た回帰直線はそれぞれ非常によく似た結果となったが,他の試験方 法によるものより,回帰直線の傾きは緩やかであり,試験法による差が現れているようである(Fig 9)。
 Fig 10は,MOR//とMOE//をそれぞれ規準化した値で示したもので,全体データに対する回帰直線の傾きは1より小さい。このこと は,強度の方が剛性よりも節の影響を敏感に受けることを示している。
 合板の規格
 Fig 5に各国の規格に規定されている節径比の大きさを示した。各国の原木事情等を反映してかなり広い範囲にわたっていることが窺える。
 節径比の制限は,合板に要求される性能に基づき,使用単板の強度および単板構成を考慮して定める必要があろう。
 合板の強度的性質を解明するために,今後,標準的な試験方法,早材の出現確率,節周辺の繊維走行の乱れ等について検討していく必要があろう。

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−林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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