スギ黒粒葉枯病の発生生態に関する研究

−特に病原菌の生理・生態的性質と病原性−

庄司次男
   
要旨
 
 スギ黒粒葉枯病菌の生態,特に子のう盤の形成,子のう胞子 の放出・発芽と環境条件並ぴに病原菌の侵入機構と病原性について調べた。病原菌Chloroscypha seaveriは,欧州,北米及び日本に分布する菌で,スギ科,ヒノキ 科数属に寄生し,スギに強い病原性を示す。自然状態において,子のう盤が多く形成され,子のう 胞子が成熟する時期は春と秋である。東北地方では,積雪量ほぼ1mを境にして,少雪地帯では春, 多雪地帯では秋形成と明白に分かれる。子のう盤形成適温は多湿条件下で10〜20℃である。発病と 病徴進展が早い少雪地帯では6月に子のう盤が形成され,子のう胞子が成熟するが,多雪地帯では 子のう盤形成時期である8月が高温期となるため子のう盤形成か抑制され,低温期の秋にずれ込む。 子のう胞子の発芽の良否は子のう盤形成時期と関係し,春に形成される子のう胞子は相対湿度98% 以上,温度10〜20℃で発芽するが,秋に形成された直後の子のう胞子はこの条件で発芽せず,5℃ で約3か月間の加齢(aging)を必要とする。菌叢の発育は天然培地で良好,合成培地では不良であ る。菌叢発育適温は20〜25℃,最適pHは弱酸性である。病原菌は気孔からスギ組織内に侵入する。 菌糸及ぴ子のう胞子の接種試験では,明確な病徴発現まで,春接種では1年,秋接種では1年半を要 し,潜伏期問は長い。本菌の感染期間は子のう胞子が存在する5〜7月の3か月間であった。

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−森林総合研究所研究報告−
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