本論文は休業機械のナックルブームクレーンの制御システムについて研究を行ったものである。現在 北欧諸国,北米などで用いられている多くの林業機械は,クレーンで材の積み込み積み下ろしを行い,またハーベスタヘッドやプロセッサ ヘッドなどの作業機を車両に搭載したクレーンの先端に取り付け,高能率の作業を行っている。これらのクレーンの形式はほとんどがナッ クルブーム式である。日本においてもこれらの機械が近年多く使用されはじめており,生産性の向上,安全な作業,林地を荒らさない作業 を目指して地形条件や作業方法などの日本の環境に適合した機械の開発が進められている。しかし,ナックルブームクレーンは多数の油圧 シリンダ,油圧モータにより動かされているが,現在のところ,この運転はこれらに直接接続された多数のレバーを同時操作することで行 っており,運転手の負担も多く,運転には習熟が必要である。
本研究の目的は,ジョイスティックなどを用いた簡単な操作で,クレーンの先端を指示した目標位置へ指示した経路で移動させる制御シ ステムを開発することである。またこの制御システムは,クレーンの先端を現在位置から目的位置へ設定した経路に沿ってできるだけ速く 移動させることを目的としている。この経路は必ずしも直線ではなく,任意の経路を設定することができる。
目標位置は運転手がその位置をジョイスティックで直接指示したり,高度なセンサによって立木の位置を自動的に識別しこれを目標位置 としたり,あるいは途中の障害物を検知して適切な経路を設定したりすることが考えられるが,本研究では,目標位置はこれらの方法で与 えられたものとしてアームとブームの油圧シリンダを制御する方法について検討した。
クレーンの先端を目標位置へ移動させるには,これらの油圧シリンダを協調して制御しなければならない。また,クレーン先端の移動速 度は,油圧ポンプの吐出容量や回転速度に規制され,さらにクレーンの位置によって必要な油圧流量が変化する。従って,目標位置が外部 から与えられたとしても,機械の運転には高度な制御が必要となる。
このシステムの制御にはファジィ論理制御(Fuzzy Logic Controler,FLC)を用いた。本論文ではFLCの基礎となるファジィ集合及び今 回設計したFLCの基礎的な特性について述べている。さらに,森林総合研究所で試作した車両に本研究で開発したファジィ制御プログラム を載せて実験を行い,プログラムの評価を行った結果について述べている。さらに,森林総合研究所で試作した車両に本研究で開発した ファジィ制御システムを載せて実験を行い,プログラムの評価を行った結果について述べている。
試験に使用した機械は,Fig.1,2に示したもので,ナックルブームはブーム,アーム,エクステンションブーム,旋回装置から構成され, これらは油圧シリンダあるいは油圧モータで駆動している。そしてこれらの油圧アクチュエータは,電磁流量制御バルブで制御されるが, これに与える信号をコンピュータからD/Aコンバータを介して出カした。使用したセンサはブームとアームの角度を検出するポテンショ メータである。制御プログラムは全てC言語で作成した。
今回の試験は,ブームとアームの角度のみを制御した。ブームとアームの幾何学的構造はFig.3に示した。クレーン先端が移動可能な範 囲をFig.4に示した。おのおのの角度とシリンダの伸縮量の関係はFig.5に示した。クレーン先端の座標とブーム,アーム角の関係を表す運 動学方程式は式(1),(2)に,その逆関数は式(3),(4)に示した。またこれらの速度を求める式を式(5)から(12)に示した。シリンダの伸縮 量とブーム,アーム角の関係を式(13),(14)に,ブーム,アームシリンダの速度とブーム,アームの角速度の関係を式(15),(16)に示した。
本論文での制御システムの考え方は,目的位置までできるだけ速く,そして現在位置と目標位置を結んだ経路上をクレーン先端が誤差な く移動するようにすることである。制御システムの全体の構成はFig.6のブロック図に示した。ここでは目標値の座標を運動学方程式の逆 関数からブーム,アニム角に換算し,この値とセンサで測定したそれぞれの角度の差を誤差量として制御装置に入カしている。
この目標値は,現在位置と目標位置を結んだ経路上に7msecの制御サイクルごとに設定される。用いている油圧回路の最大流量の制限か ら,現実の機械はシリンダの速度に制限があり,しかもこの制限はクレーン先端の位置により常に変動する。従って運転手の指示した速度 を下回った速度で動かさなければならない事態も生じ,その時には目標値も変化する。この点について3.2節で詳しく論じた。
FLCは,コンピュータのプログラムで実現したが,その構成をFig10に示している。ファジィ化のための入力データの量子化については Table 1及びAppendix Jに示した。入力値のメンバーシップ関数をFig.11,12に示した。また,用いたファジィルールをFig.13に,非ファジ ィ化のための出力のメンバーシップ関数をFig.13に示した。
出力についても,油圧回路の流量の制限からその値をそのまま流量制御バルブに送ることはできない。そこでこの出力に係数を乗じて実 際の出力値とした。この係数は現場チューニング係数と呼び現場試験で求めたが,これについての詳しい説明を4.1節で述べている。
ステップ応答試験,サインカーブによる追随試験を行い現場チューニング係数を決定した。
また,440sの荷重をクレーンの先端につるした負荷状態と,無負荷状態での直線移動の試験を行い,システムの変動に対する強さ(ロ バスト性)を調べた。さらにクレーン先端の移動速度について,移動経路が直線上を追随しないが速度が速い場合と,速度は遅くなるが直 線上を追随させた場合の比較を行なった(Table 2)。
試験の結果,現場チューニング係数を2.2ないし2.6とすることで,オーバーシュートの少ない安定した制御が行えた(Fig.16,17)。また, ファジィ制御プログラムは油圧回路及びクレーンの設計からくる非線形性にもかかわらずロバスト性の高い結果を示した。グレーンの先端 に作業機を想定し440sの重量をつるした場合でも,やはりロバスト性の高い結果を示した(Fig.18〜21)。クレーン先端が初期位置と目標 位置を直線で結んだ線上を移動するように制御した結果,クレーン先端の軌跡の垂直方向の誤差は3p以下であり,センサの誤差を含んでも 5p以下であった。これらの誤差はこのナックルブームクレーンを林業作業用に用いるためには十分小さいものと考えられる。このシステム の場合,制御を安定させるために流量制御バルブヘの出力をその最大値である±1.5Vを±0.8Vの範囲に現場チューニング係数で制限する必 要があった。初期位置から目標位置までの直線上を誤差なく移動させたときの移動時間は,直線からの誤差を考慮しないで移動させた場合に 比べ約30%の遅れが見られた。これらはこのシステムの問題点であるが,本論文ではこの点についていくつかの解決方法を提案している(5 章)。
結論的にいえばFLCは従来の制御方法に比較してより有利な制御方法であり,クレーンのコントロールシステムとして有効な手段であると いえよう。今後,この制御にクレーンの回転とエクステンションブームの制御を加えて3次元での制御に発展させていくことが考えられる。
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−森林総合研究所研究報告−
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