スギ針葉形質における数例の補足遺伝子

菊池秀夫

要旨

 スギが示す針葉の形態変異のなかには,複数の優性遺伝子が働き合って一つの形質を発現する現象がある。スギ収集個体のなかから針葉形質にそれぞれの特徴を備えた四つの変異個体(Cr-36:外向鈎形針葉,Cr-40:外向鈎形針葉類似型,Cr-44:巨大針葉型,Cr-48:細長針葉型)を用いて遺伝実験を行い,交配一代目及び二代目家系を育成した。親の交配では,変異型親の自家受粉及び正常型親との他家受粉を行った。親の自家受粉家系からは変異苗が正常苗に混じって出現し,変異苗と正常苗の分離の割合はCr-36,Cr-44,Cr-48で9:7に近似した。他家受粉家系からも変異苗が出現し,変異苗と正常苗の分離の割合はCr-36,Cr-40,Cr-44及びCr-48で1:3に近似した。さらに,それぞれの変異型親に由来したF家系の正常個体を用いて交配を行った。このうち,Cr-36では,既知のCr-54補足遺伝子を持った標識遺伝子保有個体Cr-54との間で変異型遺伝子の対立性検定を行った。その結果,変異苗と正常苗が1:3の割合で分離した。このことからCr-36の変異針葉形質は既知のCr-54の外向鈎形針葉形質の遺伝子と同じ遺伝子による発現と認定した。Cr-40,Cr-44及びCr-48のF正常個体を用いた交配では自家受粉,検定交配,兄妹交配を行った。自家受粉,検定交配からは変異苗の出現は認められなかった。兄妹交配では交配組み合わせによって変異苗が出現する家系と出現しない家系があった。変異苗が出現した家系では,変異苗と正常苗が1:3の割合で分離した。このことからCr-40,Cr-44及びCr-48のそれぞれの変異形質の発現は,二対の非対立の優性遺伝子が,互いに作用を補足し合う補足遺伝子によるものと認定した。

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−森林総合研究所研究報告−
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