プレスリリース | |||||||||||||||
平成19年 3月26日 | |||||||||||||||
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−媒介昆虫のマツノマダラカミキリは奥羽山脈を越えられなかったことが判明− |
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独立行政法人 森林総合研究所 |
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独立行政法人 森林総合研究所はマツ枯れの最北端である秋田県と岩手県の被害地で、マツ材線虫病を媒介するマツノマダラカミキリのDNA解析を行い、その遺伝子の組成を調査・比較しました。その結果、両県のマツノマダラカミキリは遺伝的に異なることが判明し、本種は奥羽山脈を越えて両県の間を移動しなかったことが分かりました。このことにより、マツ材線虫病は東北地方の日本海側と太平洋側で別々に北上して拡大し、それに伴ってマツ枯れの被害も拡散したことが明らかになりました。この成果により、マツ枯れの被害拡大の先端となっている地域から未被害地への侵入ルートが的確に予想できることとなり、被害拡大防除対策を適切に行うことが可能となります。 | |||||||||||||||
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[研究の背景] マツノマダラカミキリ1)(写真1)が運ぶマツノザイセンチュウによりマツ材線虫病が蔓延し、日本のマツは次々と枯れています。被害は北上を続け、現在、日本海側では秋田県北部、太平洋側では岩手県中部が被害先端地域です(写真2)。被害先端地域では、これ以上の北上を防ぐために防除帯2)を作成して、未被害地へのマツノザイセンチュウの侵入を厳しく監視しています(写真3)。防除帯をしっかりと機能させるためには、媒介者であるマツノマダラカミキリの移動経路を解明してその地域で防除を徹底する必要があります。しかし、マツノマダラカミキリが被害先端地域でどのように移動しているのかについては情報が乏しく、信頼できる科学的なデータが得られていませんでした。 近年、分子生物学の手法を野外の昆虫にも用いることが可能となり、日本大学、東京大学、森林総合研究所が共同して、全国のマツノマダラカミキリの遺伝子の組成の調査に取り組んできました。このような分子生物学の手法を用いた解析により、本種成虫の移動を追跡できる可能性が開けました。そこで、北東北におけるマツノマダラカミキリの移動実態の解明に挑みました。 マツ枯れ被害の北上は、奥羽山脈をはさんで日本海側と太平洋側で同調的に進行してきました。そのため、奥羽山脈を越えた個体の移動がマツ材線虫病の拡散を助長した可能性が考えられました。この仮説をマイクロサテライト3)という遺伝子マーカーを用いて検証しました。 |
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[研究の成果] 被害先端地域の周辺で採集した成虫を用いて、脚の付け根の1mmほどの筋肉からDNAをとりだし、遺伝子解析を行いました。秋田県と岩手県のマツノマダラカミキリは遺伝的に区別がつくまとまりに区切られました(図1、図2)。集団間の移動が頻繁であれば、それらは遺伝的に均一化するはずですが、秋田県と岩手県のマツノマダラカミキリが遺伝的に区別できるということは、奥羽山脈が障壁となって両県の間を移動できなかったことを示します。一方、秋田県内、岩手県内ではほぼ均一な遺伝子の組成を持つことから、調査地点のマツ林の間を比較的自由に移動していると考えられました。 |
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[成果の活用方法] この成果は、東北のマツについて集中的に防除する地点を計画したり、防除帯をつくるためにマツを伐倒する範囲を決定したりする上で重要な情報となります。すなわち、マツノマダラカミキリは奥羽山脈を越えては移動していないため、同山脈側からの移動を防ぐための防除帯の設置は不要です。被害先端地域では比較的平坦な地形に位置するマツ林を対象として、樹種転換や伐倒駆除を実施することが、防除に効果的であると考えられます。被害材の人為移動には引き続き警戒を続けながら、場所を集中した効率のよい防除をおこなうことにより東北のマツを守れる可能性が示されました。 本成果は、秋田県立大学、秋田県森林技術センター、岩手県林業技術センターの協力のもと、森林総合研究所の運営費交付金により行われました。 |
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[本成果の発表論文]
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