![]() 発行:農林水産省林野庁 森林総合研究所 |
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No.32 1994.11.30 |
クリントン政権のゴア副大統領が中心となって,積極的に推進している全米情報基盤整備(NII)の影響を多分に受けて,マルチメディア,通信ネットワークといった活字が新聞紙上を賑わせています。コンピュータを道具として情報を電子化してデータベースとし,送受信することを情報化と呼んでいますが,我が国の情報化は大都市中心に整備されてきており,地域における情報サービスはコスト的なものを含めて不利な条件下にあります。このため,第四次全国総合開発計画においては,地域における情報基盤の整備を進めていくことが極めて重要であると指摘され,林業構造改善事業においても情報化は大きな柱の一つになっています。
コンピュータで高性能林業機械の運用を支援
ここでは,近年導入の著しい高性能機械の一つであるタワーヤーダ(移動式集材機械)による作業を,情報化で,支援するシステムについて紹介しましょう。
タワーヤーダは高額機械であるため,採算性を考えれぱ集材機や林内作業車に比べ格段の作業効率で運用する必要があります。そのためには,オペレータの習熟度,作業手順の効率化,タワーヤーダの稼働率を各々高める必要があります。3番目の稼働率はタワーヤーダを利用できる伐採対象林分の箇所を明らかにすることと,作業ロットを大きくすることによりかなりの部分は解決します。手順としては,森林調査簿や施業図,林道・作業道路線をデータベース化します。そして,図1のようなプロセスでデータを加工することにより,各作業道でのタワーヤーダ適用可能小班を抽出します。抽出する条件はタワーヤーダを設置した場所と林分との距離,そしてタワーヤーダから繰り出す集材架線の角度です。
いま経済的な搬出距離を250m,架線の角度を上下32°とし,Z作業道をモデルとして試算すると図2のようになりました。この中には広葉樹林や幼齢林も含まれていますから,コンピュータの持つ検索機能を用いてスギ・ヒノキで,4〜6齢級という条件に合う間伐適期の小班を選び出したのが図3です。作業ロットを確保するには森林所有者から同一時期に間伐を実施する旨の同意を得る必要があります。そこで,対象となる林分の所有者を表1のように森林簿のデータから抽出し,担当者はこの表を見てタワーヤーダを用いるためのロットの設定が可能かどうかを判定します。
図3.適用林分のうちスギ,ヒノキの4〜6齢級林業 また,作業功程との関係で搬出距離を変えたときに対象となる林分面積がどう変化するかを見たい場合があります。図 4が全小班を抽出したときの搬出距離と対象面積の関係を示し,図5がそのうちスギ,ヒノキの 4〜6齢級を抽出した場合です。以上の作業はコンピュータを利用して行いますので,数分で実施できます。こうした作業を地域全体に広げて行えば,地域で何台のタワーヤーダを必要とするかを事前に推定できます。
なお,タワーヤーダの作業効率を考えれぱ,複数の森林組合が1台の機械を共同して利用するケースが多く なります。そこで,タワーヤーダの運行スケジュールを作成するため,幾つかの森林組合を通信ネッワークで結んで連携を取れるようにする研究や,森林所有者の合意形成のためのシステム作りを進めています。
図4.集材距離と対象林分面積(全小班)
表1.森林所有者一覧
情報化の将来
Windowsの普及により操作に当たっても面倒なキー操作は激滅しました。 カーソルをアイコンと呼ばれる表示マークやメニューの上に移動させ,ボタン を押すだけで必要な情報を見ることができるようになり,コンピュータに 不慣れな人でも抵抗感なく扱えるようになっています。地図データ入力に ついても,かつての数分の1の費用でできるようになりました。学校教育におけるパソコンの導入も進み,情報処理機械を操作するのに抵抗のない世代が育ちつつあります。これらの世代が労働力市場に参入すれば,情報化が一気に進展する可能性があります。他産業に一歩遅れてではありますが,林業分野においても情報化へ進む機運は成熟しているといってよいでしよう。こうした情報化を支援するため,コンピュータのソフトウエアという形で我々の研究成果を林業の現場に移植するとともに現場で蓄積されたデータを研究にフィードバックさせて活用する機会も,今後ますます増えていくでしょう。
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