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平成28年11月28日
ポイント
国立研究開発法人森林総合研究所(以下「森林総研」という)は、英国イーストアングリア大学などと共同で、送粉者を守り、送粉サービス(注1)を維持するために必要な農林業および環境政策を提言しました。世界各地で送粉者が急激に減少しており、地球規模での政策の転換が必要とされています。今回、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアの研究者と共同で、送粉者や送粉サービスを守るために各国政府が配慮すべき10の政策を提言しました。本成果は、来月メキシコで行われる生物多様性条約締約国会議(CBD COP13)において活用されることで、送粉者や送粉サービスに関する地球規模の問題の解決に貢献すると期待されます。
本成果は、2016年11月25日にScience誌で公開されました。
多くの農作物や野生植物において、果実を生産するためには、花粉を運ぶ動物(送粉者)が必要です。このような送粉者としては、ミツバチ等の昆虫、鳥、コウモリ等の多様な動物が知られています。2016年2月にマレーシアにて開かれた「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」第4回総会で、「送粉者と食料生産に関するアセスメント報告書」が公表されました。この報告書では、送粉者による経済効果は年間最大5,770億米ドルに及ぶと試算されましたが、同時に北西ヨーロッパと北アメリカで送粉者が急激に減少していること、日本を含め他の地域では情報不足のため早急な調査が必要なことが指摘されました。したがって、送粉者を守り、送粉サービスを維持する対策を講じることが我が国でも必要とされています。
送粉者を守り、送粉サービスを維持するために各国政府が行うべき10の農林業および環境政策を作成しました。この中で、森林総合研究所は計画の立案と執筆を分担しました。
1. 農薬の使用基準の向上
送粉者に対する農薬のリスク評価を行い、その結果に基づいて農薬の使用基準を制定すること、すでに制定されている場合には規制を強化することが必要です。
2. 総合的病害虫管理(IPM)の推進
病害虫の防除において、経済性を考慮しつつ、農薬だけでなく利用可能な様々な技術を、適切な手段で総合的に講じる総合的病害虫管理(IPM)が必要です。
3. 遺伝子組み換え植物のリスク評価
送粉者に対する遺伝子組み換え植物のリスク評価において、遺伝子組み換え植物を栽培することによる間接的な影響、および亜致死(死に至らしめる手前)的な影響を考慮することが必要です。
4. 人工飼育送粉者の移動の規制
マルハナバチなどの人工飼育種が、本来の生息地外で利用された時、生息地外の生態系に悪影響を与える場合があります。そのため、人工飼育種の生息地外利用に注意することが必要です。
5. 送粉者を守る農林業生産者を助けるための補償
送粉者を守るために、農薬の代わりに天敵を利用した害虫防除を行った場合、生産能力が低下することがあります。こうした場合の農林業生産者への補償が必要です。
6. 農業における送粉サービスの重要性の認識
多くの農作物の種子や果実の生産は、送粉サービスに依存していることを認識することが必要です。
7. 多様な生産システムのサポート
大面積に単一の農林産物を生産するような画一的な栽培方法だけではなく、多様な生産システムが必要です。
8. 送粉者の生息地の保全と再生
森林等の自然植生は、送粉者に食料や生息場所を提供します。そのため送粉サービスを維持するには、自然植生を農地や都市の周辺に確保し、送粉者の生息場所となるように管理する必要があります。
9. 送粉者と送粉サービスのモニタリング
送粉者や送粉サービスに関するデータが不足している国、地域では、長期的なモニタリングシステムの開発が必要です。
10. 研究資金の提供
上記7や8と農林産物の生産性に関わる調査には資金が必要です。
本成果の内容は、IPBESの「送粉者と食料生産に関するアセスメント報告書」の内容とともに、2016年12月にメキシコで行われる生物多様性条約締約国会議(CBD COP13)において提言されます。今後、各国の政策においてこれらの成果が活用されることで、送粉者や送粉サービスに関する地球規模の問題の解決に貢献すると期待されます。また、国内でも、健全な送粉者や送粉サービスの維持にもとづく持続可能な農林業の発展への貢献が期待されます。
お問い合わせ先 |
研究推進責任者:森林総合研究所 研究ディレクター 小泉 透 研究担当者: 森林総合研究所 森林昆虫研究領域 昆虫生態研究室 主任研究員 滝 久智 広報担当者:森林総合研究所 広報普及科広報係 Tel:029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp |
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