研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2019年 > ニホンライチョウ、温暖化で絶滅の危機 〜北アルプスでニホンライチョウの生息に適した環境は今世紀末にほぼ消失のおそれ〜
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2019年7月10日
長野県環境保全研究所
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
長野県環境保全研究所、森林総合研究所、高知大学、東京農業大学の研究グループは、ライチョウの潜在生息域が、温暖化によってどのように変化するかを予測しました。本研究は、中部山岳高山帯のアイコンであり、絶滅危惧種でもあるライチョウの分布を、生息環境である高山植生との関係性に基づいて予測すると共に、気候変動の影響を予測した日本ではじめての報告です。
本研究結果は、2019年7月10日17時にBMC Ecology誌(電子版)に掲載されます。
日本の中部山岳高山帯のみに隔離分布するライチョウは、本種の世界最南限の集団でもあります。八ヶ岳や白山、中央アルプスでは既に絶滅し、現在、その個体数は2,000羽弱まで減少していると推定されています。ライチョウは、温暖化に脆弱とされる高山植生に強く依存した生活をおくっています。そのため、今後の保護管理策の策定において、温暖化の影響を考慮にいれる必要があります。
本研究では、ライチョウ生息地の中心部である北アルプスにおいて、ライチョウの分布と高山植生との関係性に基づいて生態ニッチモデルを構築し、ライチョウの潜在生息域を予測しました。その結果、ライチョウは稜線に近く、ハイマツ群落や雪田草原群落、風衝地群落といった高山植物群落がバランス良く成立する場所で生息する確率が高いことが分かりました。
次に、ライチョウが気候変動によってどのような影響を受けるかを、現在と将来(2081-2100年)の潜在生息域を比較することで評価しました。その結果、今回もちいた経済成長重視を想定した気候シナリオ*5に基づくと、ライチョウの潜在生息域は高山植生の減少により、今世紀末(2081-2100年)に現在の0.4%に減少すると予測されました。
【写真】ライチョウの母子(7月の燕岳にて)
【図】現在(左)と将来(2081-2100年、右)におけるライチョウの潜在生息域の予測結果
着色された場所が潜在生息域を示し、緑色から赤色に変化するに従ってライチョウの生息する確率が高くなることを示す。
本研究の結果は、温暖化の影響が、ライチョウ生息地の中心部である北アルプスの個体群にも大きく及ぶことを示唆しています。今後、温暖化への適応策として、ライチョウの繁殖補助や移動補助のような保全策の効果を高めるためには、北アルプス以外の山岳も含めた、現在の全生息域を対象とした温暖化の影響評価に関する研究が必要です。
題目:Modeling future wildlife habitat suitability: serious climate change impacts on the potential distribution of the Rock Ptarmigan Lagopus muta japonica in Japan’s northern Alps
著者:Hotta M, Tsuyama I, Nakao K, Ozeki M, Higa M, Kominami Y, Hamada T, Matsui T, Yasuda M, Tanaka N.
掲載誌:BMC Ecology
DOI: 10.1186/s12898-019-0238-8
研究費:文部科学省気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)、環境省環境研究総合推進費(S-8、S-14)、日本学術振興会科研費(JP16H04943)
長野県環境保全研究所、森林総合研究所、高知大学、アジア航測、東京農業大学
*1潜在生息域:ある生物種の生息に適した環境条件に該当する地域
*2生態ニッチモデル:生物種の分布と気温や降水量といった環境条件との関係性から、対象種の分布する確率を予測する手法
*3繁殖補助:生物種の雛を天敵や悪天候から人為的に保護すること
*4移動補助:現在の生息域から他の生息可能な地域に生物種を人為的に移動すること
*5気候シナリオ:温室効果ガスの排出シナリオに基づき、気候モデルによって予測された気候データのこと
お問い合わせ先 |
研究担当者: 森林総合研究所 北海道支所森林育成研究グループ 主任研究員 津山 幾太郎 広報担当者: |
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