研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2020年 > 無花粉スギの原因遺伝子(MALE STELARITY 1 )を同定 ―MALE STELARITY 1 を持つスギをDNA分析で迅速・正確に識別する手法を開発―
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2020年3月30日
新潟大学
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
東京大学
基礎生物学研究所
スギ花粉症は、我が国の大きな社会問題の一つになっています。新潟大学農学部の森口喜成准教授、森林総合研究所樹木分子遺伝研究領域の上野真義チーム長、東京大学大学院新領域創成科学研究科の笠原雅弘准教授、基礎生物学研究所生物機能解析センターの重信秀治教授らの共同研究グループは、雄性不稔遺伝子MS1を同定し、この雄性不稔遺伝子を持つスギをDNA分析によって識別する方法を開発しました。これにより、精英樹や在来品種等から雄性不稔遺伝子MS1を持つスギを100%の精度で正確に極めて短期間で探索することが可能となりました。現在、開発した手法を用いて、全国のスギから無花粉スギの育種素材の探索を進めています。
本研究成果のポイント
スギ花粉症は、我が国の大きな社会問題の一つになっています。林業分野におけるスギ花粉症対策の基本は、花粉発生源を減少させることです。そのため、無花粉スギと呼ばれる雄性不稔スギ(図-1)の選抜・研究が精力的に行われてきました。無花粉スギの花粉を飛ばさない性質は、雄性不稔遺伝子と呼ばれる1つの潜性遺伝子で決まっています。そのため、両親から無花粉となるタイプの遺伝子(a)を受け継いだスギ(雄性不稔遺伝子をホモ接合型で持つスギ:aa)は無花粉となりますが、無花粉となるタイプの遺伝子(a)と花粉を飛ばすタイプの遺伝子(A)をそれぞれ受け継いだスギ(雄性不稔遺伝子をヘテロ接合型で持つスギ:Aa)は、雄性不稔遺伝子を持つにも関わらず、花粉を飛ばします。このような雄性不稔遺伝子を持っていても形態からでは識別できないスギの選抜にはDNA分析が有効です。これまで雄性不稔遺伝子(MALE STELARITY 1(MS1))を持つスギを100%の精度で正確に識別できるDNA分析法はなく、MS1の同定とその識別手法の開発が期待されていました。
図-1 花粉を飛ばす正常なスギ(左)と無花粉スギ(右)の雄花の断面
スケールの数字はmmを表す。
本研究グループは、雄性不稔遺伝子MS1を同定し、この雄性不稔遺伝子を持つスギをDNA分析によって識別する方法を開発しました。開発した識別法を用いることで、雄性不稔遺伝子MS1を持つスギの正確なDNA識別が可能になりました。
この研究では、スギを対象に、DNA増幅を特異的に行う方法を用いて雄性不稔遺伝子MS1を検出する技術を開発しました。
雄性不稔遺伝子MS1を持つ交配家系を用い、花粉を含む雄花等の組織で発現する遺伝子の配列を網羅的に収集しました。正常な花粉を飛ばすスギと無花粉スギとの間で遺伝子の塩基配列の違いを解析した結果、雄性不稔遺伝子MS1を同定することができました。この遺伝子の機能(アミノ酸配列)に異常が生じる変異型対立遺伝子をホモ接合型で持つスギは100%の確率で雄性不稔(無花粉)となることを、交配家系の連鎖解析や既存の育種材料で確かめました。
また、雄性不稔(無花粉)を示す変異型対立遺伝子が、2種類(ms1-1およびms1-2)ある事を明らかにしました。これらの変異をマーカーとしてDNA分析を行うことで、精英樹や在来品種等から雄性不稔遺伝子MS1を持つスギを100%の精度で正確に極めて短期間で探索することが可能となりました(図-2)。
図-2 ms1-1 および ms1-2 対立遺伝子をDNA解析で判定した結果
新大3号は変異型対立遺伝子ms1-1をホモ接合型で持つ無花粉スギ、
大井7号は変異型対立遺伝子ms1-2をヘテロ接合型で持つ花粉を飛ばすスギ、
中頸城4号は変異型対立遺伝子を持たない花粉を飛ばすスギ
現在、開発した手法を用いて、全国のスギから雄性不稔遺伝子を持つ育種素材の探索を進めています。今回の成果を活用し、今後も、無花粉スギの普及拡大に尽力していきます。
本研究成果は、第131回日本森林学会学術大会にて発表されました。
これらの研究成果は、2020年3月26日に特許出願を行いました。
本研究は、農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業『無花粉スギの普及拡大に向けたDNAマーカー育種技術と効率的な苗木生産技術の開発(28013B)』および『成長に優れた無花粉スギ苗を短期間で作出・普及する技術の開発(28013BC)』」の支援を受けて行われました。
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