研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2022年 > カミキリムシに不妊化現象を引き起こす細菌を発見 ―今後の害虫防除資材としての開発に期待―
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2022年2月24日
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
国⽴研究開発法⼈森林研究・整備機構森林総合研究所と国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究グループは、森林性昆虫の一種であるビロウドカミキリに、ボルバキアと呼ばれる細胞内寄生細菌が感染していることを発見しました。また、このボルバキアは、ビロウドカミキリを不妊化させることも明らかにしました。本研究は、カミキリムシ科昆虫の生殖機能が、感染している細菌によって操作されていることを示した初めての報告になります。他の昆虫種では、不妊化現象をもたらすボルバキアを生物的防除資材として利用する試みが進められていることから、本研究で発見されたボルバキアの特性も、今後、害虫として知られる他のカミキリムシの防除に応用できる可能性があります。
本研究成果は、2022年1月14日に国際科学雑誌「PLOS ONE」でオンライン公開されました。
昆虫類には細菌などの微生物を体内に宿し共生関係を築いているものが多く存在します。それらの場合、微生物は昆虫の体を「すみか」として利用し、一方、昆虫は微生物から栄養的・代謝的な恩恵を授かっています。ところが、昆虫の体内に生息する微生物の中には、巧みにその宿主を利用し自らを増やそうとする利己的なものも存在します。その代表として挙げられるのが“ボルバキア”と呼ばれる細菌です。この細菌は、雌成虫(母)から次世代(子)へと感染する手段を取ることから、子孫に占める感染雌成虫の割合を高めようとします。そのための戦略として、宿主昆虫に様々な生殖異常を引き起こすのです。
これまで、カミキリムシ科に属する昆虫(カミキリムシ)は飼育の難しさなどもあり、体内に宿している微生物の存在や、その微生物が宿主に与える影響などについてはほとんど調べられてきませんでした。
本研究では、人工飼料を用いた室内飼育法を実現させたことで、カミキリムシとそれに宿る細菌との関係を調べることに成功しました。その結果、森林性の昆虫として知られるビロウドカミキリ(写真1)にボルバキアが感染しており(写真2, 写真3)、そのボルバキアは宿主であるビロウドカミキリに対して生殖異常を引き起こすことがわかりました。本発見における特記すべき点としては、
1)地域によってボルバキアに感染している個体群※と感染していない個体群があること(写真2)
2)感染個体群からは2種類のボルバキアが同時に検出されること
3)このボルバキアはビロウドカミキリに不妊化を引き起こすこと(図1)
などが挙げられます。ここで言う不妊化とは、ボルバキアに感染している雄と感染していない雌との間で交配した場合に、卵が死んでしまう現象のことを指します(図1)。逆の組み合わせ(非感染雄×感染雌)では、卵は普通に孵化するので、世代を繰り返すごとに、感染している個体の割合が高くなっていくと考えられます(図1)。感染している2種類のボルバキアがそれぞれこの不妊化現象にどのように関与しているのかは今のところ不明ですが、本研究は、カミキリムシの生殖機能が感染している細菌によって操作されていることを示した初めての報告になります。
写真1. ビロウドカミキリ
日本の森林に広く生息しているカミキリムシである。
写真2. 青森県深浦町および岩手県紫波町で採集したビロウドカミキリ個体群のボルバキア遺伝子診断
M:DNAサイズマーカー
青森県深浦町産のビロウドカミキリからはボルバキアの遺伝子(ftsZ,wsp,16s)が3つとも検出されるが、岩手県紫波町産のビロウドカミキリからはどの遺伝子も検出されない。図中の深浦個体群で示されている各バンドには2種類のボルバキア由来の遺伝子が含まれている。
写真3. ビロウドカミキリの卵巣内に存在するボルバキアの可視化(FISH解析)
A:ビロウドカミキリの卵巣の一部(卵巣小管)
B:写真Aの矢印の部分を輪切りにした様子。青色:ビロウドカミキリの細胞核、赤色:ボルバキア。細胞核以外の隙間を埋め尽くすかのように、ボルバキアが高密度で存在しているのがわかる。
図1. ボルバキアに感染した個体と感染していない個体との間の交配で得られた卵の孵化率
グラフの上の数値は調べた卵数
ペア1、ペア2、ペア3の孵化率は60%~70%程度で変化がないが、ペア4の孵化率は0%であった。
他の昆虫種では、不妊化現象を引き起こすボルバキアを害虫種に導入し、生物的防除資材として利用する試みが進められています。本研究によって発見されたボルバキアも、カミキリムシに対して不妊化を引き起こすことが証明されました。ビロウドカミキリは害虫ではありませんが、森林に被害をもたらすカミキリムシは数多く存在します。よって、例えば、マツ材線虫病の媒介昆虫であるマツノマダラカミキリなどにこのボルバキアを導入することができれば、害虫防除資材の開発に向けた新たな展開が期待できます。
タイトル:Cytoplasmic incompatibility in the semivoltine longicorn beetle Acalolepta fraudatrix (Coleoptera: Cerambycidae) double infected with Wolbachia
著者:Takuya Aikawa, Noritoshi Maehara, Yu Ichihara, Hayato Masuya, Katsunori Nakamura, Hisashi Anbutsu
掲載誌:PLOS ONE(2022年1月オンライン公開)
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0261928
研究費:文部科学省科学研究費補助金「16H04944 and 19H03004」など
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