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プレスリリース

2022年6月24日

 東京都公立大学法人 東京都立大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
東京都八丈島八丈町

外来家屋害虫アシジロヒラフシアリに対するハイドロジェルベイト剤の新規開発と住民参加型防除プログラムの効果の評価について

概要

近年、八丈島で大発生し、家屋害虫化している外来種アシジロヒラフシアリ(学名:Technomyrmex brunneus)を防除するため、東京都立大学大学院理学研究科生命科学専攻の江口克之准教授、寺山守客員研究員、森林総合研究所の砂村栄力主任研究員らは東京都八丈島八丈町とプロジェクトチームを立ち上げ、本種に効果的なハイドロジェルベイト剤と地域全体の管理プログラムを開発しました。
本研究チームによる予備的研究によって、本種が市販のアリ専用ベイト剤(毒エサ)では駆除できない難防除害虫であることがわかったため、新規のベイト剤を開発する必要があると判断されました。そこで、まず、ベイト剤の有効成分の検討を行いました。その結果、フィプロニルやホウ酸といった他種アリでは有効な成分では効果が不十分でしたが、チアメトキサムは濃度0.001%以上で有効であることがわかりました。また、アシジロヒラフシアリは糖分を含む液体状の餌を好むことから、高吸水性樹脂に薬液を吸収・保持させた極めて水分に富んだゼリー状の剤形である「ハイドロジェルベイト剤」を国内で初めて試用し、実際に10%および30%ショ糖水を含むハイドロジェルベイト剤は本種に対する誘引性が非常に高いことが確認されました。
これらの結果を踏まえ、1集落の居住区域全体を対象として、住民自らハイドロジェルベイト剤(30%ショ糖水、0.001%チアメトキサム)を一斉に散布するという「一斉防除試験」を企画・実施しました。その結果、数週間から1ヶ月程度、アシジロヒラフシアリの働きアリの個体密度が有意に抑制されました。また、一斉防除試験に参加した住民に事後アンケートを行ったところ、ベイト剤散布の簡便さ、本種への防除効果に対する評価が非常に高い結果となりました。
本研究で開発したハイドロジェルベイト剤と管理プログラムにより、アシジロヒラフシアリを抑制することが可能であること、さらに、防除に対する意欲が高く、適切な指導を受けた地域住民の防除プログラムへの参加が、外来アリ類の個体群の防除に非常に有効であることを示しました。

ポイント

外来家屋害虫アシジロヒラフシアリを対象とした効果的なハイドロジェルベイト剤を開発し、それを用いた住民参加型防除プログラムを企画・実施した結果、本種への高い防除効果が示されました。

  1. アシジロヒラフシアリに最適化された有効成分・製剤形であるチアメトキサム配合ハイドロジェルベイト剤を開発し、市販剤では困難なアシジロヒラフシアリ防除を可能にした。
  2. ハイドロジェルベイト剤はごく少量の高吸水性樹脂に薬液を吸収させて簡便・低コストで作成可能である。散布後は、時間経過とともに脱水して見えないレベルにまで縮小するため、回収の手間が不要である。
  3. 地元のコミュニティー、住民主体で実施可能な一斉防除プログラムを考案、実施したところ、数週間から1ヶ月にわたり、アシジロヒラフシアリの働きアリの個体密度を劇的に低下させることができた。

研究の背景

防除が極めて困難な外来アリであるアシジロヒラフシアリ(学名:Technomyrmex brunneus)はアジアに広く分布しますが、日本国内の分布は人為的な移入によるものとされ、南西諸島などから知られていました。本種は主に樹上で採餌活動をし、立木の腐朽部や枯れ枝などに多数の巣を作り、行列を作って行き来します。林の縁の比較的乾燥した環境を好むため、林に隣接する民家や植込みに囲まれた民家では本種の侵入被害を受けやすいです。本研究グループの代表者である都立大理学研究科の江口准教授は、2016年6月に、「八丈島で近年、黒いアリが増えて、家屋にも頻繁に侵入し困っている」との情報を得たため、現地の協力者に依頼し標本を入手し確認をしたところ、当時、八丈島からは記録のなかったアシジロヒラフシアリであることが判明しました。そのため、同年の夏と秋に、緊急の分布調査をしたところ、八丈島の5集落全てで本種が分布し、うち4集落では個体密度が非常に高いこと、さらに、八丈島が一つの巨大なスーパーコロニー注1)によって占められていることが明らかとなりました。この研究結果は、江口准教授の研究指導を受けた学部4年生が主著者となり、2017年に論文として発表されましたが、全国的にヒアリ問題が顕在化した時期と重なり、八丈島のアシジロヒラフシアリは大きな問題と認識されることはありませんでした。その一方で、八丈島での本種の高密度化や家屋害虫化は深刻となり、2019年10月に八丈町議会より本種の防除に対する協力依頼があったため、江口准教授と寺山客員研究員、森林総合研究所の砂村主任研究員らは、八丈町とアシジロヒラフシアリ防除のためのプロジェクトチームを立ち上げました。
暖かい時期の頻繁な家屋侵入と、それによって引き起こされる屋内電気設備の故障が最も大きな問題となっているため、集落内での本種の個体密度を可能な限り低くすることを当面の目標に設定しました。問題解決のためにはベイト剤による駆除が最も現実的な手段と考えられました。一方で、本種はアリ類一般とは異なり、個体間での栄養の分配は口移しではなく、巣の外で得た餌を食べた働きアリが産み落とす栄養卵注2)を介して行われることがすでに知られていたため、薬剤が口移しによりコロニー内で水平伝搬することは期待できませんでした。そこで、非常に多くの働きアリを効果的に誘引・殺虫することで栄養卵を生む働きアリを劇的に減らし、コロニー全体を飢餓状態に追い込み、新しい働きアリや女王・雄の生産力を低下させるという戦略を立てました。そのために、予備的研究として、適切な誘引成分を見つけることに着手しました。すでに商品化されているアリ専用ベイト剤に加え、ショ糖水、蜂蜜水やピーナッツクリームなどを野外に設置したところ、本種が固形やペースト状の市販のアリ専用ベイト剤を全く好まないこと、液状の餌、特にショ糖水に非常に強く誘引されることがわかりました。その研究結果を踏まえ、アシジロヒラフシアリを防除するためにはこれまでにない新規のベイト剤を開発する必要があると判断し、近年海外で液状の餌を好む外来アリ類の防除に使われているハイドロジェルベイト剤に着目し、米パデュー大学の専門家らの協力を得ながら本研究を実施しました。

研究の詳細

【アシジロヒラフシアリに効く殺虫成分を特定】
まず初めに、アリ類に対する効果が高いとされる5種類の異なる殺虫成分(チアメトキサム、ジノテフラン、イミダクロプリド、ホウ酸、フィプロニル)について、ハイドロジェルに配合して実験室内のアシジロヒラフシアリに与え、効果を確認しました。その結果、濃度0.001%以上のチアメトキサムを含むハイドロジェルベイト剤は7日間で90%以上の死亡率を示しました。その他の殺虫成分は、試験した濃度において「死亡率が低い」、「アリのベイト剤持ち帰り行動に異常をきたしてしまう」等の理由で、性能が不十分でした。以上から、アシジロヒラフシアリは他種のアリに比べ効果的な有効成分の種類が限定されることが明らかになりました。

【ハイドロジェルの強い誘引力を確認】
次いで、30%と10%のショ糖水を含ませたハイドロジェル、30%と10%のショ糖水、10%の蜂蜜水を含ませた脱脂綿、ピーナッツクリーム、水道水を含ませた脱脂綿を野外に設置したところ、30%と10%のショ糖水を含ませたハイドロジェルが最も高い誘引効果を示しました。アシジロヒラフシアリは水分含量の多い餌を好みますが、ハイドロジェルは内部の液体を保持する力が強く、液体が土壌に浸み込んですぐ失われることがありません。また、ハイドロジェルの作成に用いる樹脂は微々たる量であり、時間経過とともに自然に消失するので、野外に設置しても回収する必要がないという点でも優れていることから、ハイドロジェルは、対アシジロヒラフシアリに最適化された製剤形と考えられ、一斉防除で用いることとしました。

【住民参加による地域一斉防除を実行し、効果を実証】
以上を踏まえ、2021年5月に、樫立集落にて、ハイドロジェルベイト剤(30%ショ糖水、0.001%チアメトキサム)を用いた一斉防除試験を行いました。予め八丈町が作成したハイドロジェルベイト剤を全272世帯、18公共施設、2社(神社)について、1世帯・施設あたり1.8リットル配布し、住民自らがスプーンで敷地内に散布しました。また、一斉防除試験の4日前と9日後、37日後に、散布区域10ヶ所で、ショ糖水トラップに誘引される本種の個体数を確認しました。その結果、一斉防除実施前に比べて9日後では87%、37日後では32%の本種個体数の減少がみられたことから、ハイドロジェルベイト剤の一斉散布によって本種の個体数が大幅に減少することがわかりました。また、一斉防除試験に参加した住民に事後アンケートを行ったところ、146件もの回答が得られ、ベイト剤設置の簡便さ、本種への防除効果にする評価が非常に高い結果となりました。

内部の液体を保持する力が強いハイドロジェルと水分含量の多い餌を好むアシジロヒラフシアリ
ハイドロジェルに誘引されたアシジロヒラフシアリ

研究の意義と波及効果

アシジロヒラフシアリは他種のアリに比べ効果的な有効成分の種類が限定されることが明らかになりました。また、本種に対し誘引力のあるベイト剤はこれまで液体状ベイト剤に限定されていましたが、本研究では日本で初めてハイドロジェルベイト剤を導入し、高い誘引力を持つことを示しました。以上をもとに、アシジロヒラフシアリに最適化された有効成分・製剤形であるチアメトキサム配合ハイドロジェルベイト剤を開発し、市販剤では困難なアシジロヒラフシアリ防除を可能にしました。また、住民参加型の防除プログラムは、日本本土に生息するアルゼンチンアリを主に対象とし実施されていますが、本防除プログラムは世界的にみてもユニークな試みであり、人的資源の乏しい離島における外来種の防除に有効な手段であることが確認されました。
2022年度は、防除対象地域を3集落に拡大し、ハイドロジェルベイト剤を6回一斉散布する計画であり、すでに2回目の散布が実施されています(3回目は6月26日に実施予定)。また、モニタリングに関しても住民主体で今後行う予定です。住民がスマートフォンで撮影したモニタリング用エサ皿の画像を提供してもらい、江口研究室の大学院生が開発したAI自動カウントシステムにそれらの大量の画像を読み込ませることで、ごく短時間でアリ種の判定と個体数のカウントが自動で行われます。それによって、少数の調査員がモニタリングを行うよりもはるかに大量のデータが得られ、本種に対する防除効果をより高い精度で評価できると期待しています。
東京都の島嶼部は熱帯・亜熱帯性の外来アリ類の国内への侵入の入り口となり、そこを経由地として本土へと分布を広げる可能性も懸念されます。また、アシジロヒラフシアリなどの樹上で採餌・営巣活動を行うアリ類は、居住地や農地だけでなく在来の森林の林冠部に生息域を拡大して、捕食者や競争者として在来生物の生存を脅かす可能性もあります。本研究によって有効性が示された住民参加型の防除プログラムは、人的資源の乏しい離島における外来アリ類の防除に大きな可能性を与えるものと期待します。

用語解説

(注1)スーパーコロニー:広範囲に分布する多数の巣同士が行列で行き来して協力しあい、実質的に1つの巨大な家族(コロニー)のようにふるまう状態のこと。(元に戻る

(注2)栄養卵:栄養を分配するために生み落とされる卵のこと。アシジロヒラフシアリの働きアリは自ら蓄えた栄養をもとに栄養卵を生むことができる。栄養卵は他の働きアリや女王アリ、幼虫の餌となる。(元に戻る

発表論文

タイトル:“Development of an effective hydrogel bait and an assessment of community-wide management targeting the invasive white-footed ant, Technomyrmex brunneus

著者名:Eiriki Sunamura, Mamoru Terayama, Ryota Fujimaki, Takashi Ono, Grzegorz Buczkowski, Katsuyuki Eguchi

雑誌名:Pest Management Science(2022)

DOI:10.1002/ps.7027

 

 

お問い合わせ

研究担当者:

東京都立大学大学院 理学研究科 生命科学専攻 江口 克之 准教授

森林総合研究所 森林昆虫研究領域 昆虫管理研究室 砂村 栄力 主任研究員

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

 

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