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プレスリリース

2022年10月17日

秋田県立大学
森林総合研究所

タケササ類の一斉開花の見過ごされてきた意味
—120年に一度の花を食べる昆虫とその寄生蜂との相互作用—

秋田県立大学生物資源科学部生物環境科学科の坂田ゆず助教、蒔田明史教授および森林総合研究所の小林慧人研究員の共同研究チームの研究成果が、生物学の国際学術誌「Biological Journal of the Linnean Society(リンネ学会発行)」に掲載されました。本研究成果は、特異的なタケササ類の開花習性の進化メカニズムを解明する手がかりとなることが期待されます。

発表のポイント

  • 近年、九州から東北・北海道にかけてハチクやスズタケの開花が報告されており、120年ぶりの一斉開花として注目を浴びています。タケササ類の多くは、一生に1度だけ広い範囲で同調して開花し枯死する一回繁殖性の植物であり、その開花周期は100年以上に及ぶとも言われています。
  • タケササ類は、開花が希な現象であるにもかかわらず、多様な昆虫がタケササ類を食べることが最近の研究から確認されています。(Sakataら、2020)
  • このような一斉開花性が進化した理由の一つとして、非開花年が続くことで花や種子を食べる捕食者の密度を下げた後に、開花年に捕食者が食べきれないほど大量に開花・結実することによって、多くの種子を残すことができるからだという捕食者飽和仮説が有力視されてきました。
  • 共同研究チームは、この現象に注目して、全国の開花地において複数年にわたって結実率や食害率を調べて、開花規模や開花年との関係を解析し、一斉開花が昆虫による食害を逃れる上で有利であることを明らかにしました。
  • さらに、大規模な開花地では小規模な開花地と比べて2年目以降に捕食者のみならず捕食者に寄生する寄生蜂も増加することが分かり、捕食者の寄生率が高まり捕食者の増加が抑えられることで種子を残すことができる可能性が示され、一斉開花の新たな意義を提示しました。

研究の背景

タケササ類は数十から百数十年にも及ぶ開花周期を持ち、一回繁殖性1で多数の個体が広域にわたって同調して花を咲かせる一斉開花性(図1,2)を示す植物です。また、一斉開花年の翌年に少数ながら花を咲かせる(咲き遅れ年)ことも知られています。こうした特異な開花習性を進化させた理由の一つとして、捕食者飽和仮説2が有力視されてきました。しかし、開花が稀であることから十分に検証されていませんでした。タケササ類の捕食者として、種子を食べるネズミについては古くから注目されてきましたが、花を食べる昆虫については最近まであまり注目されてきませんでした。さらに、その寄生蜂の挙動はほとんど知られていませんでした。坂田助教らのチームは、これまでの研究で、日本に分布する12種のタケササ類について、ハエ目キモグリバエ科のササノミモグリバエ属(図3,4)とタマバエ科のSitodiplosis属の幼虫(図5,6)に花や種子が食害され、さらに前者は寄生蜂であるコガネコバチ科およびヒメコバチ科に寄生される(図7,8)ことを明らかにしてきました(Sakata,Kobayashi&Makita2020)。
本研究では、2017年から2020年にかけておよそ120年ぶりに全国において見られたスズタケ3(10地点)とハチク(20地点)の一斉開花地(図1,2)において、開花規模が異なる開花地間や一斉開花年と咲き遅れ年との間で結実率、花の食害率および捕食者の寄生率について比較することで、タケササ類の一斉開花の適応的な理由として生物間の相互作用の影響を調べました。

スズタケ、ハチクや、ササノミ モグリバエ、タマバエ、寄生蜂などの成虫と幼虫の写真
1.スズタケと2.ハチクの一斉開花地。3.4.ササノミモグリバエの成虫と幼虫。幼虫は、花の雌蕊および雄蕊の全体を食する。5.6.タマバエの成虫と幼虫。幼虫は花の子房のみを食する。7.8.寄生蜂の成虫と幼虫。成虫は、ササノミモグリバエの幼虫に産卵し外部寄生する(白矢印が寄生している幼虫)。縮尺=0.5mm

開花規模や開花年による食害率の違いを示したグラフ
各開花地において20花序を採集し、各花序あたり食べられていた花の割合(食害率)と結実した花の割合(結実率)を求めた。また、各開花地で採集した20花序全体で、寄生されていたササノミモグリバエの割合を求めた。グラフは、各測定値の平均値±標準誤差を表す。
スズタケでは、9.スズタケの花食害率は、一斉開花年は咲き遅れ年よりも、また大規模な開花地は小規模な開花地よりも低かった。10.ハチクでは、花食害率は一斉開花年は咲き遅れ年よりも低く、また一斉開花年において、近隣に昨年開花した林分が存在した場合は存在しない場合よりも高かった。11.スズタケの結実率は、一斉開花年は咲き遅れ年よりも、また、大規模な開花地は小規模な開花地よりも高かった。12.スズタケの捕食者の寄生率は、大規模な開花地では一斉開花年よりも咲き遅れ年に顕著に高かった。

研究成果

スズタケとハチク両種において、一斉開花年はその咲き遅れ年よりも、捕食者である2種のハエの出現頻度および食害率は低く、スズタケでは結実率が高いことが示されました(図9-11)。また、スズタケにおいて、大規模な開花地(開花林の面積>100ha)は小規模な開花地(面積<3ha)に比べて、食害率は低く結実率が高いこと、ハチクにおいて、近隣に昨年以前からの開花地が存在しない場合では、存在する場合に比べて、食害率が低いことが分かりました。これらのことからタケササ類の一斉開花性は、捕食者の食害を逃れる上で有利となっていることが考えられました。また、スズタケでは4つのうち3つの大規模な開花地において、咲き遅れ年の捕食者(ササノミモグリバエ)は高い割合で寄生され(図12)、咲き遅れ年でも種子の結実が少ないながらも観察されました。一方6つのうち5つの小規模な開花地では咲き遅れ年に種子の結実はほとんど観察されませんでした。したがって、大規模な開花地では捕食者の増加が寄生蜂によって抑制され、翌年も種子を残すことに寄与している可能性が示されました。

波及効果と展望

これまで多くの生物学者が、植物の一斉開花が進化した理由を解明すべく取り組んできました。その中でもタケササ類は、開花周期が非常に長く一斉開花後も数年にわたり開花が見られることから、その習性は謎に包まれていました。本研究から、こうしたタケササ類の特異な開花習性が進化した背景として、捕食者からの食害を逃れて種子を残すことに加えて、捕食者の寄生率を高めることで捕食者の増加を抑えるという新たな視点が見えてきました。こうした視点は他の一斉開花植物においても普遍的に見られる重要な理由となっているのかもしれません。

研究者のコメント

タケササ類が数十キロを超えて一斉に花を咲かせる光景は、昔から多くの人を惹きつけ不思議がられてきました。2010年代に入って以来、各地で一斉開花の様相が目立ってきたスズタケやハチクにおいても全国各地でニュースなどの形で関心を集めました。本研究は、この長年謎に包まれてきた現象が見られる理由の一端を、小さくて地味な花の中で繰り広げられる花を食べるハエとさらにその敵である寄生蜂が握っている可能性を示しました。複数の栄養段階の生物に注目することで、敵の敵が味方として作用することでタケササ類の不思議な開花習性が進化したかもしれないと考えると生物のつながりの奥深さを感じずにはいられません。

掲載論⽂

著者:Yuzu Sakata, Keito Kobayashi, Akifumi Makita

表題:Multi-trophic consequences of mass flowering in two bamboos (Poales: Poaceae)

雑誌:Biological Journal of the Linnean Society

DOI: 10.1093/biolinnean/blac121

Publication date: 17 October 2022

用語解説

1)一回繁殖性:開花・結実を1回し、その後枯死する(元に戻る

2)捕食者飽和仮説:非開花年に捕食者の密度を下げ、開花年に捕食者が食べきれないほど大量に開花・結実させることにより、多くの種子を残すという仮説(元に戻る

3)スズタケ:図鑑ではスズダケの和名がつけられているが、ここでは慣習的に使われるスズタケを用いている(元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 関西支所 小林慧人

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

 

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