研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2023年 > シカ個体数を減らすにはメスの捕獲が効果的

ここから本文です。

プレスリリース

2023年2月20日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

シカ個体数を減らすにはメスの捕獲が効果的

ポイント

  • シカを減らすためには、メスの捕獲が効果的であることを実証した。
  • 個体数の増減傾向は地域ごとに異なり、メスの捕獲割合が高い地域ほど個体数が減少傾向にあった。
  • オス・メスをランダムに捕獲するのではなく、メスの報奨金を増加するなどのインセンティブを与えることで、より効果的に個体数を減らせる可能性がある。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所らの研究グループは、ニホンジカ(以下シカ)個体数をより効果的に減らすために、メスを捕獲することが効果的であることを実証しました。
過剰に増加したシカ類による生態系への影響や植林地への被害は、日本に限らず世界的な問題であり、個体数を減らす手段の1つが捕獲です。理論的には、仔を産むメスを捕獲すれば、より効果的に個体数を減らすことができるとされてきましたが、それを実証した研究はほとんどありませんでした。本研究では、福岡県内で広域的に調べられてきたシカの個体数データと捕獲の統計データを基に、メス(ただし角の無い幼獣オスを含む可能性がある)の捕獲割合が高い地域では確かに個体数が減少傾向にあることを明らかにしました。
本研究の結果は、シカ個体数を減少させるためには、メスを捕獲することが効果的であることを示しています。シカを捕獲すると報奨金が支払われていますが、多くの自治体ではその金額に雌雄差がありません。メス捕獲に対して報奨金を増加するなどのインセンティブを加えることによってより効果的に個体数を減らせる可能性があります。
本研究成果は、2022年11月3日にBiology誌でオンライン公開されました。

背景

シカ類の増加とそれに伴う農林業や生態系への被害が世界各地で問題となっています。日本でもシカによる農林業被害は非常に深刻で、近年の全国の農作物被害総額は年間50億円以上となっており、林業被害額を含めるとこれ以上になると推測されます。過剰に増加したシカ類を減らすために世界各地で捕獲が実施されており、より効率的に個体数(密度)を減らす手法の開発は急務となっています。
これまで、シミュレーションでは仔を産むメスを捕獲することでより効果的に個体数を減らすことができるとされてきましたが、それを実証できた研究はほとんどありませんでした。そこで本研究では、福岡県内で広域的に収集されてきたシカの個体数データと捕獲の統計データを基に、2001年から2017年の県内の地域ごとに、捕獲された個体の性比と個体数の増減傾向を比較しました。

内容

捕獲の統計データでは、角の有無を基準にして雌雄が記載されていた可能性があり、メスと記載されているものの中にはメスだけでなく、角がまだ生えていない幼いオス(幼獣オス*1)が含まれている可能性がありました。そこで、ここではメスと記載されているものを無角ジカ(メスと幼獣オス)、オスと記載されるものを有角ジカとして取り扱いました。
シカの個体数についてみると、県中央部で減少傾向が示され、それ以外の地域では増加傾向にあることがわかりました(図1)。そして、無角ジカの捕獲割合が高い地域ほどシカが減少していました(図2)。無角ジカの中には幼獣オスが含まれている可能性はあるものの、有角ジカ(オス)の捕獲の効果は小さかったことから、事実上メスの捕獲が重要と言えます。
一方で、例外的に無角ジカの捕獲割合が低いにもかかわらずシカ個体数が減少している地域があることもわかりました。ここでは、調査期間中の捕獲数が一定ではなく、後半でより多くのシカが捕獲されたことにより、一時的に個体数が減少したようです。
こうした捕獲数の経時変化による例外的な地域もあるものの、本研究の結果は、これまでほとんど実証されてこなかったメスの捕獲が個体数を減少させるのに効果的であることを示す重要な証拠となります。

シカの個体数が福岡県中央部で減少傾向、中央部以外の地域では増加傾向にあることを示した図
図1. 福岡県におけるシカの個体数増減傾向の地域的な違い。赤丸と青丸はそれぞれ増加傾向と減少傾向にある地域を示しています。

図2.無角ジカの捕獲割合が高くなると個体数が減少しやすかったことを示したグラフ
図2. 無角ジカの捕獲割合と個体数の増減傾向の比較。縦軸の個体数の増減傾向の数値が0より小さい時はシカが減少傾向(青い丸)、0より大きい時はシカが増加傾向(赤い丸)であることを表します。この図から、無角ジカの捕獲割合が高い地域ほどシカの個体数が減少傾向にあったことがわかります。

今後の展開

シカの捕獲には自治体より報奨金が支払われます。一部の自治体を除けば、雌雄どちらを捕獲しても報奨金の額に差がありません。今後、メスの報奨金を増額するなどインセンティブを加えてメスの優先的な捕獲を促し、メスを選択的に捕獲する方法を開発することにより、効果的にシカの個体数を減らせる可能性があります。
そのため、メスジカを効率よく誘引し、捕獲する手法の開発は、シカの個体数を減少させるための次の課題と言えるでしょう。

論文

論文名:A 17-year study of the response of populations to different patterns in antlerless proportion of imposed culls: Antlerless culling reduces overabundant deer population

著者名:Kei K. Suzuki, Yasumitsu Kuwano, Masatoshi Yasuda

掲載誌:Biology

DOI:10.3390/biology11111607

共同研究機関

福岡県農林業総合試験場

用語解説

*1 幼獣オス
1歳以下のオス。ニホンジカのオスは1歳を超えたころから角が生え始めます。(元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 九州支所 森林動物研究グループ 主任研究員 鈴木 圭

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

 

Adobe Acrobat Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Acrobat Readerが必要です。Adobe Acrobat Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。