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プレスリリース

2024年11月21日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

森林は激しい雨のときにより多くの雨水を蒸発させる

ポイント

  • 森林に降った雨水の一部が地面に達することなく蒸発する現象を遮断蒸発といい、洪水時の河川流量を減らす効果が示唆されています。
  • 通常のスギ林よりも3~4倍密に植栽されたスギ林で遮断蒸発を測定しました。
  • 遮断蒸発は雨が強いほど増えることが知られていますが、1時間当たり20mm以上の激しい雨のときには遮断蒸発の増え方が特に大きくなることが分かりました。
  • 今後、樹種や森林管理方法の異なる森林でもこの現象を検証する必要があります。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の村上茂樹 研究専門員は、森林に降った雨水の一部が蒸発する遮断蒸発と呼ばれる現象が、激しい雨のときにより盛んになり、蒸発する雨水の割合がより大きくなることを明らかにしました。これにより、激しい雨の際に森林内の地面に達する雨水の割合が減少するので、その分だけ洪水発生時の河川流量が減る可能性があります。
これまでの研究で、遮断蒸発は雨の強さに比例して多くなることが知られていました。本研究ではスギ林で精密な測定を行って、1時間当たり20mm以上の激しい雨のときにはその比例の度合いが大きくなることを新たに発見しました。これは激しい雨のときに雨滴が枝や葉に衝突してできる飛沫が特に多くなり、飛沫の蒸発が増えるためと考えられます。
本研究成果は、2024年3月26日にJournal of Hydrology誌でオンライン公開されました。

背景

森林に降った雨水の10~30%は森林内の地面に到達することなく蒸発し、大気に戻ります。この現象を遮断蒸発と呼びます(遮断損失、または樹冠遮断と呼ぶこともあります)。一方、森林内の地面に到達した雨水は土に染み込んだ後、植物の根から吸収されて葉から蒸発(これを蒸散といいます)するか、河川水や地下水となります。大雨で河川の水量が増えて洪水になるとき、その河川の流域(川に流れ込む雨水を集めている区域)が森林で覆われていると、森林で覆われていない場合よりも河川の水量が減って洪水時の流量のピークも低く抑えられることが分かっています。森林内の地面に到達する雨水の割合を減らす遮断蒸発もその要因の一つと考えられています。これまでの研究で遮断蒸発によって洪水時の最大流量が低減されることが示唆されています*1。従って、森林を管理して遮断蒸発を増やすことができれば、森林の洪水緩和機能を増強できる可能性があります。
これまでの研究で、遮断蒸発は雨が強く降るほど増加する傾向があることが明らかになっています。しかし、遮断蒸発のメカニズムは解明されておらず、雨が強いときの精密な測定例も少ないため、どのように森林を管理すれば遮断蒸発を増やせるかについては何も分かっていません。

内容

森林総合研究所九州支所の構内にあるスギ林で、森林内の地面に到達する雨水(これを林内雨と呼びます)を測定しました(図1)。測定は、同じ時期に植栽された2種類のスギ林において植栽後7年目と8年目に同時に行いました。山でスギやヒノキを植栽するときは、通常、1ヘクタール(100m四方)当たり2500~3000本の苗木を植えますが、測定対象としたスギ林は1ヘクタール当たり5700本(面積184m2)、及び9700本(113m2)が生育しており、かなり密な林です。これまで、これほど密なスギ林で遮断蒸発の測定を行った例はありませんでした。森林内の雨は枝と葉の影響で不均一に降るため、均一になるように、長さ4m、幅23cmの長い樋(とい)2本で集めます。さらに幹を伝って流れ下る雨水も4本の幹から集め、この2種類の雨水を足し合わせたものを林内雨とします。スギ林の近くの開けた場所では、森林の外に降る雨も測定しました。これはいわゆる雨量と同じですが、森林の外に降る雨なので、あえて林外雨と呼びます。遮断蒸発は林外雨から林内雨を引き算して求めます。別の見方をすると、森林が存在することによって林外雨は林内雨(樋で集めた雨水と幹を流れ下る雨水)と遮断蒸発に配分されます。これらの雨水の量は、水平な場所に貯まる水の深さ(単位はmm)で表し、遮断蒸発も同様に蒸発する前の水の深さで表します。
大雨のときの1時間ごとの林外雨(すなわち雨の強さ)と、1時間ごとの幹を流れ下る雨水の関係をグラフにすると、右上がりの直線になります(図2a)。雨の強さが増加して1時間当たり約20mmを超えると、雨が強すぎるために枝や幹が雨水を流しきれなくなることに加え、強い雨にともなう大粒の雨滴が枝や幹に激しく衝突して飛沫となり空中に投げ出されてしまいます。このため、1時間当たりの林外雨が20mmを超える付近から直線が折れ曲がり、傾きが緩くなって幹を流れ下る雨水の増加割合が鈍っています。ちなみに、1時間当たり20mmの雨はどしゃ降り、30mm以上だとバケツをひっくり返したような降り方に相当します。
幹を流れ下ることができなかった林内雨は、樋で集めることができます。樋で集めた雨水は、確かに林外雨が1時間当たり20mmを超える辺りで折れ曲がり、傾きが急になって増加の割合が増えています(図2a)。しかし、幹を流れ下ることができなかった雨水を補うほどには増加していません。これは樋に到達しなかった雨水が飛沫となって蒸発していたためではないかと考えられます。飛沫は降雨中であっても容易に蒸発することが知られています*2。これは、霧吹きを使って水をミストにするとすぐに蒸発するのと同じです。飛沫が蒸発することで、雨が強いときは弱いときと比べて林内雨の増加割合が鈍ってしまうのです。
図2bのように、1時間当たりの遮断蒸発は1時間当たりの林外雨の増加とともに直線的に増加します。これは雨が強いほど多くの飛沫が発生・蒸発するためと考えられます。林外雨が1時間当たり20mmを超えると図2aで説明したとおり林内雨の増加割合が減るので、遮断蒸発はさらに盛んになります。このような現象はこれまで知られていませんでした。

スギ林で森林内の地面に到達する雨水を測定している様子を表した図

図1 林外雨と林内雨の測定。林外雨から林内雨を引き算したものが遮断蒸発です。林内雨は、樋で集めた雨水と幹を伝って流れ下る雨水からなります。

 

上(a):幹を流れ下る雨水、樋で集めた雨水と林外雨の強さの関係を示すグラフ。下(b):遮断蒸発と林外雨の強さの関係を示すグラフ。

図2 (a) 林外雨と幹を流れ下る雨水、樋で集めた雨水との関係。(b) 林外雨と遮断蒸発の関係。この図は1ヘクタール当たり9700本のスギが生育している林でのデータです。(b)では測定誤差のために遮断蒸発がマイナスの値になっているデータがあります。

今後の展開

測定を行った2種類のスギ林では、どちらも激しい雨のときに遮断蒸発が増加する結果となりました。密に生育しているスギ、ヒノキ林では、幹を流れ下る雨水が多くなることが知られています。激しい雨のときに遮断蒸発がより多くなる今回の結果は、スギが密に生育していて幹を流れ下る雨水が多いことと関係しているのか、あるいは通常の本数で生育しているスギ林でも同じ結果になるのか、今後明らかにする必要があります。森林土壌は雨水をゆっくりと浸透させることで、洪水の際に河川の流量のピークを低下させたり遅らせたりする(平準化)作用があることは分かっていました。しかし、樹木自体が持つ洪水緩和機能は、樹種や葉量などの樹木の性質に加えて雨の降り方によっても変わるため、評価が難しく不明な点が多いとされてきました。ここで紹介した研究は、激しい雨のときほど遮断蒸発がより多くなり森林内の地面に達する雨の割合が減ることを明らかにしました。このことは、今後研究が進展して植栽する樹種の選択や森林の管理によって遮断蒸発を増やせることが明らかになった場合、その知見を活用して森林の洪水緩和機能を増強できる可能性を示しています。

論文

論文名:Reduction in the ratio of stemflow to rainfall during heavy rain in two Japanese cedar stands and the influence on rainfall partitioning(日本の2つのスギ林分での大雨時における雨量に対する樹幹流の割合の減少とその雨水配分への影響)

著者名:Shigeki Murakami(村上茂樹)

掲載誌:Journal of Hydrology

DOI:10.1016/j.jhydrol.2024.131100
受理原稿はオープンアクセスです。 https://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4620939

研究費:運営費交付金

先行研究情報

*1 遮断蒸発が下流に及ぼす影響を評価—森林に特徴的な現象が洪水を大きく左右する—元に戻る

*2 降雨中の森林から雨水が蒸発するメカニズム元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 九州支所 山地防災研究グループ 研究専門員 村上茂樹

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

 

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