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更新日:2012年7月11日

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東北地方におけるクマゲラの生息実態の解明

問題名:多雪・寒冷地帯の森林保全技術及び林業経営技術の体系化

担当:東北支所鳥獣研究室 中村充博・鈴木祥悟
東北支所昆虫研究室 五十嵐豊
東北支所広葉樹林管理研究室 中北理
東北支所育林技術研究室 高橋和規
東北支所保護部 由井正敏
森林生物部昆虫生態研究室 槙原寛

背景と目的

国の天然記念物である大型キツツキの仲間のクマゲラは,東北地方ではその生息がブナ林に限定され,しかも生息数が極めて少ない。クマゲラはブナ林の環境保全の指標的存在と目されており,その保護のための森林の取り扱い法の確立は緊急の課題である。その前提としてまず生息実態の解明を図るため,生息環境,生活痕の特徴等を明らかにする。

成果

東北地方における1990年以降のクマゲラの繁殖地は, 青森県の中村川二股,中村川トラノ沢,尾太岳,白神奥赤石川,南八甲田と秋田県の森吉山の6か所であった。しかし, すべての繁殖地で毎年の繁殖が確認されなかったため, 生息の動向は不安定であると考えられる。東北地方のクマゲラ営巣木の特徴(表1)から,巣穴の大きさは縦径が平均15.2cm, 横径が平均9.5cmの楕円形であり,巣穴の最低の大きさは縦径12cm,横径8cmであった。南八甲田においてクマゲラ穴痕跡木(縦径12cm,縦径8cm以上ある楕円形の穴のある木)は, すべて広葉樹であった(表2)。食痕木は,広葉樹ではすべて枯れ木で,針葉樹ではすべてムネアカオオアリのコロニーのある生立木であった(表3)。目撃や声の地点から南八甲田の行動圏の面積を推定するとメッシュ法では約1,400ha,最小面積法では約l,800haであった。他の地域では北海道の混交林で300~500ha,青森県尾太岳のブナ林で約1,000ha,秋田県森吉山のブナ林で約1,000haという報告がある。

南八甲田の営巣木を中心に2km の円内の樹林等の面積比率を分析したところ,広葉樹62%,針葉樹人工林21.3%,その他16.7%であった。尾太岳と森吉山の同様の分析では,尾太岳で広葉樹天然林58.9%,広葉樹二次林4.8%,広葉樹施業区域32.3%,針葉樹人工林4.1%,森吉山で広葉樹天然林76.2%,広葉樹二次林4.2%,広葉樹施業区域15.1%,針葉樹人工林4.5%であり,南八甲田より広葉樹林の割合が高く,針葉樹林の割合が低い傾向がみられた。また, クマゲラの餌であるムネアカオオアリのコロニー木の密度調査では,北海道の羊ケ丘トドマツ天然林でhaあたり75本に対して南八甲田のブナ林でhaあたり8~13本と少なかった。これらの植生や餌木の密度の違いが南八甲田の行動圏が他の地域よりも大きな面積を必要とする一因であると考えられる。

表1 東北地方で確認されたクマゲラ営巣木の特徴
場所 樹種 樹高 (m) 胸高直径 (cm) 枝下高 (m) 巣穴高 (m) 枝下高−巣穴高 巣穴 巣穴の向き
縦径 (cm) 横径 (cm)
白神奥赤石川 ブナ 34 76 16 10 6 15 10 W
中村川トラノ沢 ブナ 29 80 14 10 4 20 12 NNW
中村川二股 ブナ 28 76 14  7 7 12  8 W
南八甲田焼山 ブナ 25 75 15 10 5 13  8 NW
尾太岳 ブナ 27 64 12  7 5 15 10 NNW
森吉山 ブナ 30 80 18 12.5 5.5 16  9 WSW
mean ± S.D.   28.8 ± 2.8 75.2 ± 5.4 14.8 ± 1.9 9.4 ± 1.9 5.4 ± 0.9 15.2 ± 2.5 9.5 ± 1.4  
表2 南八甲田におけるクマゲラ穴痕跡木の特徴
樹種 本数 巣穴数 樹高 (m)
(mean±S.D.)
胸高直径 (cm)
(mean±S.D.)
枝下高 (m)
(mean±S.D.)
巣穴高 (m)
(mean±S.D.)
枝下高−巣穴高
(mean±S.D.)
アズキナシ 1 1 16.0 54.0 10.0 3.0 3.0
オオバボダイジュ 1 5 35.0 40.0 18.0 8.8±0.8 9.2±0.8
カツラ 2 2 17.5±7.5 65.0±15.0 9.0±0.5 8.8±3.3 0.3±2.3
サワグルミ 7 10 21.7±4.5 52.6±13.0 12.3±3.5 11.6±3.2 0.5±5.0
ブナ 20 24 22.8±3.8 63.2±13.2 12.6±5.1 8.9±3.1 2.8±3.8
合計 31 42 22.4±5.0 59.3±14.1 12.3±4.6 9.5±3.2 3.1±4.6

注:縦径12cm,横径8cmの穴のある木をクマゲラ穴痕跡木とした。
ねぐら等に用いられたもので食痕とは異なる

表3 南八甲田におけるクマゲラの食痕木
  樹種 本数 状態 胸高直径 (cm)
(mean±S.D.)
食痕高 (m)
(mean±S.D.)
ムネアカオオアリのコロニー
があった本数
広葉樹 イタヤカエデ 2 枯木 47.5±2.5 1.8±0.3 0
ハリギリ 1 枯木 70.0 0.5 1
ブナ 22 枯木 71.0±22.4 1.5±0.9 9
ミズナラ 3 枯木 76.7±20.5 1.1±0.7 2
ヤナギ類 1 枯木 40.0 2.0 1
ヤマザクラ 2 枯木 55.0±5.0 0.9±0.3 0
小計   31   66.0±23.5 1.4±0.8 13
針葉樹 カラマツ 14 生木 23.6±3.1 1.4±0.4 14
コメツガ 2 生木 35.0±2.5 3.0±0.0 2
小計   16   25.5±5.1 1.6±0.7 16
合計   47   51.4±27.4 1.5±0.8 29

注:つつき跡のノミ跡が幅5mm以上の食痕とクマゲラの採餌が確認された食痕をクマゲラの食痕木とした。

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