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更新日:2012年7月18日

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日本の森林炭素吸収量とその分布

林業経営・政策研究領域 林業システム研究室 松本 光朗、鹿又 秀聡
森林管理研究領域 資源解析研究室 福田 未来
九州支所 森林資源管理研究グループ 野田 巌

背景と目的

森林は、地球温暖化の主たる原因である二酸化炭素を吸収し蓄えることから、温暖化防止の機能を持っていると考えられている。そのため京都議定書では1990年以降の新規・再植林や森林への人為的活動による二酸化炭素吸収量を、全体の排出量から差し引くという仕組みが取り入れられている。このような背景から、我が国においても森林による炭素蓄積量および炭素吸収量を詳しく把握することが求められている。そこで、世界農林業センサス(以下、林業センサス)や森林資源現況調査、国土数値情報といった既存の情報を活用し、我が国の森林による炭素蓄積量・吸収量とその分布について詳細に把握する手法を開発し、これによる具体的な推定を行った。なお、ここでは枝葉根を含んだ林木の炭素を対象としており、土壌中の炭素は対象としていない。

成果

1990年と2000年の林業センサスの森林面積から、(1)式により樹種・市町村・齢級区分ごとの炭素蓄積量を算出した。

炭素蓄積量 = 森林面積 × ha当り幹材積 × 拡大係数 × 容積密度 × 炭素含有率

(1)

林業センサスの分類に加え容積密度の差異を考慮して、樹種区分をスギ、ヒノキ、マツ、カラマツ、エゾマツ・トドマツ、その他針葉樹、落葉広葉樹、常緑広葉樹とした。これらの樹種区分に対応するha当り幹材積を、森林資源現況調査(林野庁)の分析から求めた成長モデルにより得た。拡大係数は幹に対する林木全体(幹枝葉根)の重量比を意味し、林齢と幹枝葉根の配分比の関係から求めた拡大係数モデルにより得た。容積密度は林木の単位体積に対する乾重量を意味し、各樹種区分ごとの標準値を用いた。また、炭素含有率は全ての樹種で0.50を用いた。

林業センサスにおける積算の最小単位は市町村分だが、これを分布図作成単位とするには荒すぎる。そのため、約1km四方に当たる国土数値情報3次メッシュを単位区画とし、(2)式によりメッシュ内の炭素蓄積量と炭素吸収量を算出した。

メッシュ内炭素量 = メッシュが属する市町村のha当り炭素量 × メッシュ内の森林面積

(2)

以上の方法で推定した結果、森林による炭素蓄積量は1990年において9億8千万トン、2000年において11億8千万トンと推定された(表1)。1990年と2000年の炭素蓄積量の差は、その間に森林が成長することによって吸収された炭素と、森林の伐採などによって排出された炭素の両方を含んでおり、正味の炭素吸収を表している。したがって、この間約2億トンの炭素吸収があったものと推定された。この炭素吸収量の41%はスギによるものであったが、これはスギの成長の速さと面積の広さがスギの高い炭素吸収に結びついているものと考えられた。

図1に1990年と2000年の炭素蓄積量の分布図を、図2に炭素吸収量の分布を示した。これによると、我が国の森林は全国的に広く炭素を吸収しているが、西日本地方において炭素吸収量が比較的高いことが分かった。特に有名林業地においては炭素蓄積量と炭素吸収量はいずれも高く、スギ人工林の速い成長と広い面積が反映しているものと考えられた。

なお、本研究の炭素吸収量推定手法は蓄積量変化を基礎としたものであり、IPCCのガイドラインで示されている年平均成長量を基礎とした手法とは異なったものである。また、京都議定書に基づく吸収量の推定手法についてはIPCCで現在検討中であり、その対応と精度の向上のために今後もモデルやパラメータの改善を進めていく必要がある。

本研究は交付金プロジェクト「森林、海洋等におけるCO2収支の評価の高度化」による。

p19 fig1

図1 1990年および2000年における森林による炭素蓄積量の分布

表1 森林による炭素蓄積量と炭素吸収量
樹種 炭素蓄積量 炭素吸収量
1990年 2000年
  Mt Mt/yr
針葉樹 スギ 222 305 8.2
ヒノキ 103 124 2.1
マツ 95 106 1.1
カラマツ 51 59 0.8
エゾマツ・トドマツ 10 20 1.0
その他針葉樹 45 59 1.4
小計 526 672 14.6
広葉樹 落葉樹 378 409 3.2
常緑樹 80 102 2.2
小計 458 511 5.4
合計 984 1,184 20.0
  t/ha t/ha/yr
森林haあたり 41.4 50.0 0.86
p19 fig2

図2 森林による炭素吸収量の分布

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