更新日:2012年7月18日

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濡れ雪の強度を測定する

気象環境研究領域 十日町試験地 山野井 克己
元森林総合研究所職員 遠藤 八十一

背景と目的

雪崩危険度の予知のためには、斜面での積雪の力学バランスが重要な要素である。雪崩発生の条件として考えなくてはならない力は、積雪を動かす駆動力(積雪に働く重力の斜面方向の分力)と、積雪がある面に沿ってずれることに抵抗するせん断強度である(図1)。駆動力<せん断強度の時は積雪は安定しており雪崩は発生しないが、駆動力>せん断強度になると積雪は不安定となり雪崩が発生する。駆動力は斜面傾斜と積雪の重量(積雪の深さ×積雪の密度)により決まるが、せん断強度は雪質、密度、含水率、雪温など様々な因子が影響する。既存の研究で乾いた(雪温が氷点下で液体の水が含まれていない)新雪、こしまり雪およびしまり雪のせん断強度と密度の関係は解明されているが、濡れ雪(雪温が0℃で液体の水が含まれる)やしもざらめ雪については不明な点が多い。本州に広く分布する温暖積雪地域では、濡れ雪が関わる雪崩が多数発生していることから、濡れ雪のせん断強度の特徴を明らかにする必要がある。

成果

自然積雪において、せん断強度の測定を行った。写真1に示すように、円筒型のせん断器を積雪に挿入して腕を接線方向に引っ張ると、せん断器の底面付近で積雪は脆性破壊を起こす。その時の最大荷重から積雪のせん断強度σ (Pa)が計算できる。新雪、こしまり雪、しまり雪、ざらめ雪について、せん断強度と乾き密度ρdry(単位体積中の氷の部分の重さ)の測定値の関係を図2に示す。乾き雪のせん断強度は乾き密度のべき乗の関数で表すことができ、σ=dry2.91となった。ここで、乾いた新雪、こしまり雪およびしまり雪の場合は図2の実線となりK=9.40×10-4、乾きざらめ雪の場合は図2の点線となりΚ=4.97×10-4である。

濡れ雪は乾き雪に比べてせん断強度が小さく、含水率が大きくなるほどせん断強度が小さくなる傾向が見られた。せん断強度の低下率A(濡れ雪のせん断強度/乾き雪のせん断強度)と体積含水率θ(単位体積中の水の体積割合%)の関係を図3に示す。せん断強度の低下率は体積含水率の指数関数で表すことができ、A=e-0.235θとなった。乾き雪の場合はθ=0に相当し、A=1となる。以上の関係式をまとめると、

新雪、こしまり雪およびしまり雪 σ=9.40×10-4ρdry2.91e-0.235θ
ざらめ雪 σ=4.97×10-4ρdry2.91e-0.235θ

となる。

せん断強度の推定式の検証のため積雪断面観測を行い、せん断強度の測定値と上式による推定値を比較した(図4)。図中の網をかけた部分が濡れ雪で、それより上方は乾き雪である。測定値と推定値はほぼ一致し、積雪の密度、体積含水率および雪質からせん断強度を推定することができた。

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写真1 せん断強度の測定方法

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図1 斜面積雪の力学バランス

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図2 せん断強度と乾き密度の関係
実線は乾いた新雪、こしまり雪およびしまり雪に対する回帰直線を、点線は乾きざらめ雪に対する回帰直線を示す。

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図3 せん断強度の低下率と体積含水率の関係
赤線は体積含水率が0%の時せん断強度の減少率が1になると仮定して求めた回帰直線。

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図4 積雪断面調査結果とせん断強度の鉛直分布
2001年1月18日に森林総合研究所十日町試験地で測定した。
+++は新雪、///はこしまり雪、●●●はしまり雪、○○○はざらめ雪を示す。

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