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更新日:2012年7月18日

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水の汚染物質であるアンモニアを天然多糖類高分子キトサン膜で除去する

成分利用研究領域 セルロース利用研究室 平林 靖彦

背景と目的

キトサンはカニやエビの殻に含まれるキチンから製造されることで知られているが、キチンはカビ菌、酵母菌、キノコなどの細胞壁にも多量に存在し、接合菌類の細胞壁にはキトサンも含まれる。入手可能なキチンだけで、菌類に含まれるキチンの量はカニとエビに含まれる量に匹敵すると推定されている。このようにキチンとキトサンは森林環境の循環系を構成する重要な物質であるが、森林の総合的研究におけるキチン・キトサン資源の開発研究は遅れている。キチンとキトサンはセルロースと瓜二つの分子構造を持ち、化学的にセルロース誘導体に位置づけられる。キトサンは分離膜素材としても注目されている。膜分離法は連続処理や維持管理が簡単であるので水の浄化法として非常に期待されている。水とアンモニアの分離は一般の水浄化のみならず、宇宙ステーションにおける生命維持システムにおいても重要な技術である。しかし、水分子とアンモニア分子の寸法は殆ど差が無いために、膜の孔による篩い分けの原理で分離する方式では水とアンモニアを分離できない。この課題を解決するために、キトサン膜をパーベーパレーション法(浸透気化法とも呼ばれる)に適用して新規の分離機構により水とアンモニアの分離に成功した。

成果

キチンとキトサンは直線状の高分子でセルロースと同様に多糖類に分類される。キチン、キトサンそしてセルロースの化学構造の違いは図1に示すように、分子構造中のRで示した位置が、それぞれアセチルアミド基、アミノ基、水酸基になっているだけである。しかし、図1で示すキチンとキトサンは理想的構造で、キチンは一部アミノ基を含み、キトサンは一部アセチルアミド基を含むことが多い。従ってキトサンの化学構造を表す指標の一つとして理想的キチンの構造から何%脱アセチル化してアミノ基へ変換したかを表す脱アセチル化度を用いる(図2)。

パーベーパレーション法(PV法)は液体を膜の一方に置いて膜の反対側を真空又は減圧に保って液体の成分を分離する方法で膜に孔はない。分子と膜の親和性の違いによって分離するPV法では水とアンモニアを分離できる可能性がある。そしてキトサン膜はプラスに荷電する性質があるので、プラスに荷電するアンモニア分子はキトサン膜から反発されて近づけないことによって、キトサン膜はアンモニアの透過を抑制することも期待した。

脱アセチル化度の異なるキトサン粉末を酢酸含有水溶液に溶解して膜に成形してから水酸化ナトリウム含有水溶液で中和、水洗、乾燥してキトサン膜を作製した。PV法によるアンモニア水の分離実験では、供給液中のアンモニアが透過側では何%除去されたのかを表すために、アンモニア除去率(%)={{(供給液のアンモニア濃度)―(透過液のアンモニア濃度)}/(供給液のアンモニア濃度)}×100を定義した。キトサン膜によるアンモニア除去率はキトサンの脱アセチル化度の増加(即ちアミノ基含有量の増加)に従って増加した(図2)。しかし、アンモニア除去率は供給液の温度を変えても変化しなかった(図3)ので、PV法による水とアンモニアの分離機構は分子の熱運動が関係するのではないことは明らかである。キトサン膜表面のプラスに荷電したカチオンとアンモニア水中のプラスに荷電したアンモニア分子との間の電気的反発によってアンモニア分子のキトサン膜への浸透を妨げて透過を抑制することによるものであると言える(図4)。PV法による水とアンモニアの分離機構の一端が明らかになったことにより、水とアンモニアを高度分離することができる膜を開発することが可能になるであろう。

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図1 キチン、キトサン及びセルロースの化学構造

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図2 キトサン膜の脱アセチル化度とアンモニア除去率の関係

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図3 供給液の温度と全透過速度及びアンモニア除去率の関係

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図4 供給液中のプラスに荷電した溶質分子とキトサン膜のプラス荷電との電気的反発による溶質分子の膜への浸透抑制機構を表すモデル

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