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更新日:2012年7月18日

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地域の森林を地域共同・住民参加型で管理・利用する

林業経営・政策研究領域 林業システム研究室 奥田 裕規(現:企画調整部研究交流室)、石崎 涼子
東北支所 森林資源管理研究グループ 久保山裕史

背景と目的

外材輸入の増加と長期にわたる国産材価格の低迷は森林所有者に林業経営への意欲を失なわせている。一方、教育やレクリエーションの場、動植物の保護及び景観形成など地域住民の地域森林に対するニーズは増加し、多様化している。地域森林の恵みと同時に、地域森林の荒廃の影響を最も大きく受けるのは地域住民であるため、地域森林の管理・利用の主導権は地域住民に委ねられることが望ましい。特に、身近な里山林については、地域住民が森林所有者と連携をとって、地域共同で管理活動と利用活動を一体的に行うことが理想である。ここでは、岩手県遠野市大野平・大出集落を事例として、地域住民による地域共同・住民参加型森林管理・利用のあり方について提案する。

成果

1. 地域共同・住民参加型森林利用の例

江戸時代、山林原野は刈敷(水田の肥料にする芝草)、家作用材、燃料等の採取源として、農民が生活していくうえで不可欠な存在であった。これらの山林原野は入会林野と呼ばれ、地域住民により利用に様々な制限が加えられ、適切に維持・管理されてきた。しかし、今回調査した遠野市の山村集落では、明治政府が入会林野の殆どを国有林として囲い込んだ結果、地域住民が地域森林を入会林野として利用することができなくなり、その代わりに地域住民が組織する団体(国有林材生産協同組合)が国有林から事業を請け負ったり、素材を販売することにより、地域住民の地域森林との繋がりが維持され、その生活が守られてきた。しかし、その事業量が国有林の厳しい資源事情を背景に減少してきており(図1)、それによる収入減を補うために、彼らは椎茸生産の拡大に着手した。そして、彼らは1985年早池峰椎茸分収造林組合を設立し、1986年から国有林を部分林として65年契約で借り受け、椎茸原木用のコナラを植栽している。植栽の始まった2001年までの植栽実績は約130ha、最終的には200haを目標としている(図2)。植栽後25年で伐採、萠芽更新させ、その後20年ごとに伐採し、椎茸原木を定期的に収穫する計画である。

2. 森林保全の視点からの地域共同・住民参加型森林管理・利用の例

近年、山菜採りに森林に入ってくる地域外入林者が急増している。そのことが山菜の乱獲やゴミの不法廃棄を招いている。このことに危機感を持った地域住民は1998年「早池峰普通共用林組合」を設立し、地域外入林者から山菜・キノコ採取料を徴収することを可能とする「普通共用林野契約書」を営林署長と取り交わした。共用林組合の1999年度の活動状況は採取料の徴収とマナー向上を周知する看板の設置、刈り払い等林道の整備3回、ゴミ拾い2回、共用林で採れた山菜等を販売する森の市3回、パトロールは73回に及ぶ。この活動のキーパーソンになっているのが都市部からのIターン者である。

3. まとめ

椎茸原木やエネルギー原料生産のために森林を共有資源として利用する場合は、利用しようとしている人たちの集団に、ボランタリィーな森林の保全活動などの場合は、地域に住む人たち全員が参加する集団に委ねられることが効果的である。その際重要なことは、地域住民に地域共同・住民参加型森林管理・利用を提案し、地域住民の意見を取りまとめ、実行に移すリーダーの存在とそれを共同で実行する地域住民のまとまり及びIターン者の新しい発想とそれを受け入れる昔から地域に住んできた人たちの寛容さである(図3)。今回の報告は、国有林を対象に調査・分析した結果であり、民有林において地域共同、住民参加型森林管理・利用を如何に導入するかは今後の課題である。

なお、本研究は交付金プロジェクト研究「農村経済活性化」による研究成果である。

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図1 国有林からの各種事業量の推移

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図2 椎茸部分収造林契約面積の推移

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図3 遠野市大出・大野平集落住民と周辺国有林の係わりの現状

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