第3期中期計画成果集

森林総合研究所では、5ヵ年にわたる中期計画を策定して森林・林業・木材産業に係わる研究を推進しております。このたび第3期中期計画（平成23年～27年度）で得られた主要な研究成果をとりまとめ、「第3期中期計画成果集」として発行しました。         第3期中期計画成果集 を一括ダウンロード（PDF：16,420KB） 第3期中期計画成果集 正誤表（PDF：59KB）

 

重点課題A 地域に対応した多様な森林管理技術の開発

A1 多様な施業システムに対応した森林管理技術の開発

• コンテナ苗を利用した一貫作業で再造林の低コスト化へ挑戦（PDF：840KB）
  発芽率の高い選別種子でコンテナ苗を効率的に生産する技術と、木材搬出用機械を造林作業にも使う一貫作業システムの導入により、現場での厳しい作業を省力化・軽減化し、再造林を低コスト化できることが判りました。

A2 森林の機能発揮のための森林資源情報の活用技術の開発

• 針葉樹人工林の混交林・広葉樹林化を成功させる（PDF：750KB）
  針葉樹人工林を混交林・広葉樹林へ誘導する技術を開発するため、針葉樹人工林や皆伐したブナ林等において、天然更新のデータを解析し、稚樹密度や保育作業など、広葉樹更新の鍵となる条件を明らかにしました。
• 地形から読み解く自然植生の分布特徴（PDF：860KB）
  空中写真から判読した自然植生の分布を地形条件と結び付けて統計解析することで、山地における植生タイプごとの分布の特徴や適地を推定できるようになりました。
• 身近な森林を市民の手で管理していくために（PDF：1,221KB）
  人工林を安全・確実に広葉樹林に誘導するには源となる稚樹の分布を見極め、それが健全に育つようにリスクを回避しながら光環境をコントロールすることが必要です。それらをサポートする4つのツールを開発しました。

重点課題B 国産材の安定供給のための新たな素材生産技術及び林業経営システムの開発

B1 路網整備と機械化等による素材生産技術の開発

• 欧州の先進的な林業機械だけでなく従来の国産機を上手に使って高い生産性を実現（PDF：746KB）
  森林内で伐採作業を行う欧州の先進的な車両系林業機械が各地で導入されています。この海外機と従来の国産機を使って緩～中傾斜地で間伐と皆伐作業を行い、欧州並みの高い生産性が得られることを実証しました。
  
• 欧州の先進的なタワーヤーダを使って日本の急峻な地形においても高い生産性を実現（PDF：1,065KB）
  欧州の先進的な架線系林業機械を厳しい地形条件で使用するための中間サポート架設技術をマニュアル化し、この機械が日本の厳しい地形条件においても高い生産性を示すことを実証しました。
  
• 低コストで林道をつくる（PDF：925KB）
  高精度地形データを使って、林道の路線選定を対話的に行うプログラムを開発しました。森林土木技術者に条件により変化する土工量を視覚的、定量的に示し、低コストの路線選定を支援するツールとして活用できます。
  

B2 国産材の効率的な供給のための林業経営・流通システムの開発

• 小規模な林業経営と大規模な木材加工業を結ぶ仕組みづくりの鍵（PDF：2,594KB）
  木材共同販売組織の設立や強化が進む欧州の実態調査を通じて、小規模な所有者の森林から生産される木材を大規模な製材工場等へ安定的、効率的に販売する仕組みを築く際に重要となる3つの鍵を明らかにしました。

重点課題C 木材の需要拡大に向けた利用促進に係る技術の開発

C1 木材利用促進のための加工システムの高度化

• スギ大径材の効率的な製材・乾燥技術の開発（PDF：745KB）
  スギ大径材の材質に応じて大断面製材品の種類を決定し、効率よく生産する選別・製材システムを設計しました。また、大径材から生産される大きな断面の製材品を短時間で少ない割れで乾燥できるようになりました。
• ビルも建てられる新たな木質材料、CLTの材料規格をつくる（PDF：765KB）
  国産スギ材を用いた直交集成板（CLT）の基本的な製造技術について検討するとともに、接着性能や強度性能などの様々な性能を明らかにし、日本農林規格（JAS）の制定に貢献しました。

C2 住宅・公共建築物等の木造・木質化に向けた高信頼・高快適化技術の開発

• スギ・ヒノキ・カラマツで作るコンクリート型枠用合板（PDF：734KB）
  スギ・ヒノキ・カラマツなど主要な国産針葉樹材を用い、表面に塗装を施したコンクリート型枠用合板を開発し、各種性能試験及び多くの建築や土木工事での試用を通して、「合板型枠」としての実用性を証明しました。
• 木材の香りや手触りの良さを科学的に解明する（PDF：668KB）
  木材の香りによって赤ちゃんがリラックスすることを明らかにしました。また、木材の手触りが人におよぼす影響を調べ、木材の手触りは金属やプラスチックなどの他材料に比較して「やさしい」ことを明らかにしました。

重点課題D 新規需要の獲得に向けた木質バイオマスの総合利用技術の開発

D1 木質バイオマスの安定供給と地域利用システムの構築

• 木質バイオマス発電の採算性が簡単にわかるツール（PDF：677KB）
  電力の固定価格買取制度（FIT）の下で、発電規模や燃料の種類を変更した場合、木質バイオマス発電事業の収支がどのように変化するかをシミュレートし、事業採算性を簡単に評価できるツールを開発しました。

D2 木質バイオマスの変換・総合利用技術の開発

• 天然物系で最高性能のコンクリート化学混和剤をリグニンから開発（PDF：875KB）
  スギのリグニンをポリエチレングリコールにより改質し、天然物系のコンクリート用化学混和剤を開発しました。分子構造を精密に設計することで、従来の天然物系製品と比べて10倍の性能を持たせることに成功しました。
• 次世代炭焼き技術「トレファクション」による高性能木質固形燃料の開発（PDF：1,073KB）
  これまでの炭焼き方法を改良することで、発熱量が高く、かつ水に強く扱いやすい高性能な木質固形燃料“トレファクション燃料”を開発し、地域で有効利用するモデルを作りました。
• スギからセルロースナノファイバーを一貫製造するシステムの開発（PDF：1,996KB）
  スギの細胞壁をほぐすとセルロースナノファイバー（CNF）ができます。CNFは軽くて強い新素材として様々な用途開発が期待されています。森林総合研究所では中山間地で使えるように低環境負荷なCNF製造法を開発しました。
• 北海道産トドマツ葉から革新的な空気浄化剤を開発（PDF：798KB）
  未利用資源である北海道産のトドマツの葉から空気をきれいにする成分を発見し、革新的な「空気浄化剤」として実用化に成功しました。さらに、香り成分の抽出残渣の使い道として、消臭剤としての利活用法を開発しました。

重点課題E 森林への温暖化影響評価の高度化と適応及び緩和技術の開発

E1 炭素動態観測手法の精緻化と温暖化適応及び緩和技術の開発

• 日本の森林土壌と世界の陸域土壌からの二酸化炭素放出量を独自モデルで推定（PDF：700KB）
  地球上の炭素循環の中で最も大きな流れの一つである土壌から大気中へ放出される二酸化炭素の量を推定するため、独自のモデルを構築し、日本の森林土壌や世界全体の土壌から放出される二酸化炭素の量を推定しました。
• 将来予測からみた森林分野の地球温暖化緩和策（PDF：677KB）
  森林分野での温室効果ガスの排出削減と吸収による緩和策を併せて扱う統合モデルを開発し将来予測を行ったところ、森林による吸収と並んで木材利用による排出削減が地球温暖化対策として重要であることが分かりました。
• ブナ林を温暖化から守るための保護区の見直し（PDF：746KB）
  ブナ林への温暖化の悪影響を軽減するための対策（適応策）としての保護区の見直しを、生育可能な地域（潜在生育域）と自然保護区の位置関係に基づいて提案しました。

E2 森林減少・森林劣化の評価手法と対策技術の開発

• アマゾンの森林炭素量を高精度で測る（PDF：728KB）
  森林減少が進むブラジル・アマゾンの森林炭素量を把握するため、多点での地上調査と衛星データを活用した評価手法を開発し、広域で高精度の炭素量分布マップを作成しました。

• 途上国で森林の炭素蓄積量変化を把握する（PDF：750KB）
  発展途上国での森林減少と森林劣化による二酸化炭素の排出量を推定するため、リモートセンシングと地上調査を組み合わせて、国レベルでの森林の炭素蓄積量の変化を精度よく把握する手法を開発しました。

重点課題F 気候変動に対応した水資源保全と山地災害防止技術の開発

F1 環境変動・施業等が水資源・水質に与える影響評価技術の開発

• 間伐すると森林から流出する水が増える（PDF：881KB）
  間伐が水源かん養機能に及ぼす影響を明らかにするため、ヒノキ・スギ人工林で覆われた流域において、降水や流出する水の量を調べた結果、間伐によって蒸発散量が減り、森林からの年間流出量が増えることが分かりました。
• 福島原発事故後の森林内での放射性セシウムの土壌への移行と将来予測（PDF：1,281KB）
  福島原発事故後5年間の調査から、放射性セシウムは樹木から土壌へ移動して、2015年にはほとんどが土壌に存在していました。土壌への移動速度はモデルで予測したようにチェルノブイリ事故後の欧州の場合より速いことを確認しました。

F2 多様な手法による森林の山地災害防止機能強化技術の開発

• 深層崩壊の前兆をつかまえる（PDF：980KB）
  最近、各地で豪雨による深層崩壊が発生しています。私たちは高解像度の地形データや空中写真から崩壊発生前の前兆現象を検出して、深層崩壊の危険箇所を探し出す方法を提案しました。
• 津波で失われた海岸林を再生するために（PDF：754KB）
  津波に耐えて残った海岸林の調査や被害地での植栽試験、シミュレーションなどを通じて、津波に対してこれまでより強く、津波被害軽減効果を期待できる海岸林を確実かつ効率的に再生する方法を開発しました。

重点課題G 森林の生物多様性の保全と評価・管理・利用技術の開発

G1 シカ等生物による被害軽減・共存技術の開発

• シカの行動を制御して効率よく捕獲する（PDF：827KB）
  伝統的な猟法によらないシカの新しい捕獲方法を開発しました。給餌による誘引に、銃器、森林用ドロップネット、森林用囲いワナを組み合わせることによってシカの効率的な捕獲を可能としました。
• おとり丸太の大量集積によるナラ枯れ防除（PDF：776KB）
  伐倒丸太の大量集積による虫の誘引により、生立木の枯死木を減らし、誘引した丸太はチップ化、ペレット化して殺虫するとともに、燃料や製紙用に利用して、駆除費用の大幅コストダウンを実現しました。さらに、伐倒後に多様な広葉樹林を再生する方法を開発しました。

G2 生物多様性を保全するための森林管理・利用技術の開発

• 林業地域の中で生物多様性を保全する広葉樹林（PDF：671KB）
  スギやヒノキの人工林が大半を占める林業地において、生物多様性保全に配慮した広葉樹林の配置指針を提示しました。多様な環境（土壌、地形など）に広葉樹林を残すとともに、地域内に100ha以上のまとまった広葉樹林を確保することが有効であることがわかりました。
• ブナ種子の豊凶は窒素が鍵（PDF：633KB）
  樹木の種子生産が大きく年変動する豊凶現象の制限要因は、樹体内の炭水化物ではなく窒素であることがわかりました。この成果は、ツキノワグマなどブナの結実に依存する野生生物の保護管理手法の策定など、幅広い分野で応用が期待されます。

重点課題H 高速育種等による林木の新品種の開発

H1 林業再生と国土・環境保全に資する品種の開発

• マツノザイセンチュウ抵抗性品種の開発（PDF：783KB）
  アカマツやクロマツは我が国の森林整備に欠かせませんが、マツ材線虫病により枯死しやすい樹種です。このため、全国から抵抗性品種を選抜し、さらにそれらを交配した抵抗性の高い第二世代品種の開発に取り組んでいます。
• エリートツリーの開発と特定母樹の指定（PDF：744KB）
  スギ、ヒノキ及びカラマツについて、成長や材質に優れたエリートツリー（第2世代精英樹）の開発を行いました。この中から、142系統が農林水産大臣の指定する特定母樹に指定されました。

H2 林木育種の高速化及び多様なニーズに対応するための育種技術の開発

• 先端技術を活用してスギの品種改良を高速化する（PDF：993KB）
  スギの品種改良と普及には長い年月を要しました。これは成長や材質等の系統評価のために、実際に数十年の育成期間が必要なためです。そこで、ゲノム情報を利用した評価手法等を開発し、品種改良と普及に要する期間を短縮しました。
• 出身地と異なる環境で育成した場合のスギの成長に及ぼす影響（PDF：666KB）
  次代検定林の調査データと気候データとをGIS技術を用いて統合的に解析し、スギ精英樹を元々の選抜地（出身地）とは異なった環境で育てた場合の成長に及ぼす影響を明らかにしました。
• ケニア国乾燥地耐性育種プロジェクトにおける優良種苗の開発（PDF：721KB）
  ケニアにおいて日本の技術協力による林木育種プロジェクトを実施してきました。技術移転を通じて、郷土樹種であるメリアの優良種苗の開発とその普及を図り、気候変動対策への貢献を目指しています。

重点課題I 森林遺伝資源を活用した生物機能の解明と利用技術の開発

I1 林木遺伝資源の収集、保存・評価技術の開発

• アカマツの保全にむけて地理的変異を解明する（PDF：715KB）
  日本各地のアカマツ天然林を対象にDNA分析および形態調査を行いました。その結果、西南日本、中部日本及び東北日本で緩やかに遺伝的な組成が異なることや、西南日本から東北日本にかけて球果のサイズ等に地理的な違いが存在することを明らかにしました。

I2 ゲノム情報を活用した森林植物の遺伝的多様性の解明と保全・評価技術の開発

• ゲノム情報を利用して成長が早く材質の優れた無花粉スギの苗を作る方法を開発（PDF：924KB）
  スギのゲノム情報を利用して、材質、発根性、雄花量に関連する遺伝子を複数検出しました。また、花粉症対策に最も効果の高い無花粉スギを選抜できるDNA マーカーの開発を行いました。
• サクラ栽培品種の分類体系の再編と遺伝資源管理への貢献（PDF：934KB）
  遺伝子・形質・履歴から多数のサクラ栽培品種の正確な分類を行い、病害研究の成果とともに各種の特性をデータベース化しました。全国の主要機関が保有する伝統的栽培品種を調査し、遺伝資源の管理に貢献しています。

I3 樹木及びきのこ等微生物の生物機能の解明と利用技術の開発

• 広葉樹をマツタケの宿主にすることに成功（PDF：784KB）
  針葉樹と共生するマツタケは、DNA解析の結果、潜在的に広葉樹にも共生する可能性が示唆されたため、マツタケが共生できる組織培養しやすい広葉樹を探索した結果、オオシマザクラなどの根に侵入・共生させることに成功しました。

I4 バイオテクノロジーの育種への利用技術の開発

• 遺伝子組換えで作る無花粉スギ（PDF：683KB）
  遺伝子組換え技術を用いて導入したRNA分解酵素遺伝子を雄花で働かせることで、スギを無花粉化することに世界で初めて成功しました。