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果実の食べごろを見分けるリスの色覚

2015年8月19日掲載

論文名

Colour vision and food selection of Callosciurus finlaysonii (Sciuridae) in tropical seasonal forests (熱帯季節林に生息するフィンレイソンリスの色覚と食物選択)

著者(所属)

田村(林)典子(多摩森林科学園)、 藤井 友紀子(リスと自然の研究会)、 Phadet Boonkeow(DNP, Thailand: Department of National Park Wildlife and Plant Conservation)、 Budsabong Kanchanasaka(DNP, Thailand)

掲載誌

Journal of Tropical Ecology, 51 XX 2015、DOI:10.1017/S0266467415000310(外部サイトへリンク)

内容紹介

熱帯林に生息する鳥類や霊長類は発達した色覚をもち、緑色の葉の中で紫、赤、橙、黄色などの果実を識別することが知られています。フィンレイソンリスは、東南アジアの熱帯季節林に生息し、鳥類や霊長類同様、果実や種子をよく食べます。温帯のリス類では、赤と緑を識別しにくい二色型色覚注)であることが知られていますが、熱帯林のリスがどのような色覚をもち、どのような餌を選んでいるのか分かっていませんでした。

フィンレイソンリス5個体を個別飼育し、学習装置を用いて果実の色を識別できるかどうか調べました。葉の緑色を不正解とし、果実の7色を順次正解色とし、正解を選んだ場合のみに餌を与えました。5個体とも葉の緑色に対して、白、黄、紫、茶、黒は識別可能でしたが、赤と橙は識別が困難であることが分かり、二色型色覚であることが確認できました。鳥類や霊長類に比べて色覚が限定されるリス類は、熱帯林でどのような餌を利用しているのでしょうか?

野外でフィンレイソンリスの採食行動を観察したところ、49.5%がマメ科の種子、29.5%がクワ科イチジク類でした。また、もっとも多く利用されていた色は黒または紫で52.2%、次が茶色で34.3%、黄色や赤色の果実はほとんど利用されませんでした。果実より種子を食べることが多く、より熟した果実を選択する傾向があるリス類では、たくさんの色を識別できなくとも、熟した色である黒や茶色を識別できることが重要であり、鳥類や霊長類とは異なるものの巧みに餌資源を利用していることが分かりました。

注)二色型色覚: 色覚をつかさどる細胞が2つの異なる波長に感度のピークを持っている。多くの人間やサルは3つの波長に感度のピークを持つ三色型色覚であるため、二色型では感受しにくい赤緑を識別することができる。

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