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遮断蒸発メカニズムのカギを握るのは樹木に付着する雨水だった

2017年5月19日掲載

論文名

Intrastorm scale rainfall interception dynamics in a mature coniferous forest stand (針葉樹壮齢林における降雨中の遮断の挙動)

著者(所属)

飯田 真一(森林防災研究領域)、Delphis F. Levia(米国デラウェア大学)、清水 晃(九州支所)、清水 貴範・玉井 幸治(森林防災研究領域)、延廣 竜彦(北海道支所)、壁谷 直記(九州支所)、野口 正二・澤野 真治・荒木 誠(森林防災研究領域)

掲載誌

Journal of Hydrology、548:770-783、May 2017、DOI:10.1016/j.jhydrol.2017.03.009(外部サイトへリンク)

内容紹介

森林に降った雨の一部は、樹木の枝葉(樹冠)や幹に付着します。さらにその一部は地面へと流下することなく、枝葉や幹から大気へと蒸発していきます。この現象を遮断蒸発といいます。遮断蒸発量は降雨の10~30%にも達することが知られており、森林の水源涵養機能を適切に評価する際に重要です。一般に湿度が低く太陽光が強い時に水は盛んに蒸発します。しかし降雨中や降雨後は湿度が高く、また太陽光も森林まで届きにくいことを考えると、これほど多量の遮断蒸発がどのように生じるのか謎に包まれていました。

その謎を解明するためスギ壮齢林を対象として、1時間ごとの遮断量(樹木に付着する水分量)を測りました(写真)。なお、様々な強さの雨を網羅するために3年間計測しています。その結果、遮断量は降雨開始直後に高いものの、降雨の継続とともに減少することが明らかとなりました。さらに、降雨前半と後半では降雨量には大差がないものの、遮断蒸発量のほとんどは前半の遮断量であることも分かりました(図)。次に、スギの葉と樹皮を水に浸して付着可能な水の量を測定し雨量に換算したところ7.2mmにも達し、一回の雨で生じた遮断蒸発量の最大値6.7mmに近い値を示しました。これらのことから、森林に降った雨水が直ちに蒸発するのではなく、一旦スギに付着して貯留された後で徐々に蒸発していることが明らかになりました。

この結果は、遮断蒸発の発生メカニズムを解明する上で、スギの樹冠や幹の降雨貯留量が重要であることを示唆しており、遮断蒸発量を推定し水資源量を評価するモデルを開発するうえで重要な知見となります。

 

写真:筑波共同試験地のスギ壮齢林における遮断の計測。

写真:筑波共同試験地のスギ壮齢林における遮断の計測。
遮断は直接測ることができないため、まず、樹冠を通過して地面に到達する雨(樹冠通過雨)を樋と貯留型の雨量計で測定します。また、幹の表面を流れ落ちる雨水(樹幹流)を青色のマットで集水し、その量を測ります。降雨量から樹冠通過雨量と樹幹流量を差し引いて残ったものが、遮断蒸発量になります。

図:降雨前半と後半の遮断過程の違い
図:降雨前半と後半の遮断過程の違い(データはIida et al., 2017に基づく)
※(論文中のデータに基づいて、簡略化し、研究最前線用に作り直した図です)

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