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熱帯季節林の材密度や含水率は森林タイプや樹木のサイズの違いで差がなかった

2017年10月26日掲載

論文名

Comparison of wood density and water content between dry evergreen and dry deciduous forest trees in central Cambodia (中央カンボジアにおける乾燥常緑林と乾燥落葉林の間の樹木の材密度や含水率の比較)

著者(所属)

田中 憲蔵(植物生態研究領域)、佐野 真琴(森林管理研究領域)、米田 令仁(四国支所)、チャン・ソファール(カンボジア野生生物開発研究所)

掲載誌

Japan Agricultural Research Quarterly(JARQ)、51巻4号 363-374、2017年10月25日 国際農研、DOI:10.6090/jarq.51.363(外部サイトへリンク)

内容紹介

樹木の材の密度や含水率は、成長速度や乾燥耐性といった様々な機能的性質と密接な関係があり、森林全体の機能の評価やモデル化に重要です。これまで熱帯雨林では森林タイプ間や高木や低木といった生活型間で材の特性に違いがあることが指摘されていましたが、東南アジアの熱帯季節林では知見がほとんどありませんでした。そこで、カンボジアの乾季に落葉する落葉林(以下落葉林)と落葉しない常緑林(以下常緑林)の樹木を対象に、森林タイプ間や生活型間で材の密度と含水率を調べました。

興味深いことに採取した全種で比較すると、両森林タイプ間で材密度や含水率に違いは無く、同じ種内でサイズの異なる樹木を比べても違いはほとんどありませんでした。また、常に湿潤な熱帯雨林では背が高くなる樹木ほど材密度が低いとされてきましたが、熱帯季節林では常緑・落葉林を問わず、高木でも高い材密度を持ち低木と差がありませんでした。これは、季節林では熱帯雨林に比べ高木ほど乾燥した土壌から強い力で水を葉まで吸い上げる必要があるためと考えられます。つまり、材密度が高く頑丈な木部を作ると、水を輸送する道管が大きな負圧に耐えられるため強い力で水を吸い上げることができ、厳しい乾季がある季節林への順応に有利になると考えられます。

今回得られた様々な樹木の材の特性は、森林のバイオマスの推定精度の向上に不可欠で、また樹種間での乾燥ストレス耐性の評価などにも役立ちます。

 

写真:乾季初めの常緑林の様子(左)、乾季後半の落葉林の様子(右)

乾季初めの常緑林の様子(左)。常緑林は樹高が最大40mくらいです。常緑林は土層が10mにも達し、雨の降らない乾季には分厚い土層に蓄えられた水分を使って常緑の葉を維持し厳しい乾季を過ごします。
乾季後半の落葉林の様子(右)。落葉林の樹木は樹高が20mくらいにしかならず疎林状です。乾季に入ってもしばらくは乾燥に耐えながら活発に光合成や蒸散を行っていますが、数ヶ月経つと薄い土層に蓄えられていた水分がなくなり落葉が始まります。
このようにどちらの森林タイプも乾燥ストレスを強く受けるため、高木や低木といった生活型にかかわらず材密度が高く頑丈な材を持つ樹木が多く生育していると考えられます。

 

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