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ブナの種子が実るための巧妙な窒素のやりくり

2018年2月1日掲載

論文名

Influence of reproduction on nitrogen uptake and allocation to new organs in Fagus crenata

(ブナ堅果生産が窒素の吸い上げ及び各当年生器官への配分に及ぼす影響)

著者(所属) 韓 慶民・壁谷 大介(植物生態研究領域)、稲垣 善之(四国支所)
掲載誌

Tree Physiology, 37(10):1436-1443, Oxford University Press, November 2017、DOI:10.1093/treephys/tpx095(外部サイトへリンク)

内容紹介

多くの樹木では、種子の生産量が年により大きく変動する豊凶現象がみられます。例えば、北日本の落葉広葉樹を代表するブナの場合、豊作年と凶作年では種子の生産量に数百倍の違いがあります。この豊凶現象が起こるメカニズムについては、気象条件の影響や、資源(炭水化物や窒素など)を樹木の肥大や開花・結実にどのように配分するかという供給バランスから説明が試みられていますが、その実態はまだよくわかっていません。

この研究では、こうした豊凶現象の解明に向けて、苗場山のブナ林で定期的に葉や枝、種子などを採取し、それらの安定窒素同位体比を分析する手法を用いて、土壌から吸い上げる窒素(15N)がいつどのように各器官の成長に使われるのかを、結実した木としなかった木で比較しました。その結果、初夏には、結実木の吸収した窒素の64%はドングリ(写真を参照)の成長に使われ、残りが葉の成長に利用されました。一方、非結実木では、吸い上げた窒素のほとんどが葉の成長に利用されましたが、吸い上げた総量が少なかったので、葉への配分量は結実個体と違いがありませんでした。秋になると、結実木では吸い上げた窒素の50%が種子の成熟に使われ、その一部は殻斗(「かくと」と読み、ドングリの全体を包んでいる包状器官のこと)の窒素が転流したものでした。一方、非結実木では窒素のほとんどが葉の成長に利用されたため、葉への窒素配分量は、結実木の1.6倍になりました。これらのことから、ブナは種子の生産に伴って、土壌から吸い上げる窒素量を増やしたり、殻斗の窒素を種子に転流したりして、利用可能な窒素を巧妙にやりくりしていることがわかりました。

 

写真:ブナのドングリ

ブナのドングリ:殻斗(ドングリの全体を包んでいる包状器官、殻斗の中に種子が2個)などから窒素をもらいながら種子が成熟していく

 

図:土壌から吸い上げた窒素(15N)の各器官への配分。

図:土壌から吸い上げた窒素(15N)の各器官への配分。配分量は結実の有無や季節によって異なる

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