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雪の重さが地すべり地の地下水を押し上げる

2018年8月24日掲載

論文名

The response of pore water pressure to snow accumulation on a low-permeability clay landslide (難透水性粘性土の地すべりにおける間隙水圧の積雪に対する応答)

著者(所属)

岡本 隆(森林防災研究領域)、松浦 純生(京都大学)、Jan Otto Larsen (Univ. Centre in Svalbard)、浅野 志穂(森林防災研究領域)、阿部 和時(日本大学)

掲載誌

Engineering Geology, 242, 130-141, August 2018, DOI:10.1016/j.enggeo.2018.06.002(外部サイトへリンク)

内容紹介

地すべりや斜面崩壊の発生リスクは、山地斜面の地下水の圧力(間隙水圧)が上昇することで増大します。間隙水圧の上昇要因は主に雨や融雪の地下浸透ですが、豪雪地域では雨も融雪も少ない真冬に間隙水圧が上昇する不思議な現象が時々見られます。その原因はこれまで不明で、積雪期の斜面災害リスクを予測する際の問題となっていました。

そこで、同様の問題をもつノルウェー国内の積雪地域の地すべり地において、間隙水圧の変動を3年間にわたり精密に観測しました。その結果、間隙水圧は積雪深が増加する真冬(12~3月)に上昇し積雪深が減少する春(4月)に低下する変動を繰り返しました。そして、真冬に間隙水圧を上昇させる要因は「雪の重さ」であることが分かりました。積雪は地面を下向きに押す力として働きますが、このとき土の透水性(水の通しやすさ)が極端に低いと、逃げ場を失った地下水が力の一部を受け持つため間隙水圧が上昇します。これは、例えばジュースが半分入った紙パックを上から押すとストローの先からジュースが吹き出るのと似た現象です。現場で採取した土の分析から、この地すべり地は透水性の極めて低い粘土が堆積していることが分かりました。また、逆に透水性の高い地すべり地では積雪が増えても間隙水圧は変動しないことも分かりました。

これまで、地すべりを引き起こす雪の作用として融雪がよく知られていましたが、本研究により雪の重さも無視できない役割を担っていることが分かりました。本研究の成果は、国内外の積雪地域における地すべりの発生リスクを予測するための重要な知見となり、山地災害に対する警戒避難体制の高度化に役立ちます。

 

図1:間隙水圧の上昇と地すべりの発生

図1:間隙水圧の上昇と地すべりの発生
地すべりは、地下のすべり面を境にその上の斜面が滑り落ちる現象です。地下水の圧力(間隙水圧)が上昇すると斜面に浮力に似た力が働き、滑り落ちる力に対する最大抵抗力(せん断強さ)が低下するため地すべりが発生しやすくなります。

 

写真1:観測が行われた地すべり地(ノルウェー・ロエスグレンダ)
写真1:観測が行われた地すべり地(ノルウェー・ロエスグレンダ)
透水性の極めて低い(水はけの悪い)粘土が堆積した地すべりです。冬季の積雪深は最大で約1mに達します。

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