研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2018年紹介分 > 森林伐採だけでは草原性種の多様性は守れない ―シカによる食害の防止が重要―
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2018年8月28日掲載
論文名 |
The method of conserving herbaceous grassland specialists through silvicultural activities under deer browsing pressure(シカによる摂食圧が存在する中で造林活動を通じて草原性草本種を保全する方法) |
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著者(所属) |
飯島 勇人(野生動物研究領域)・大津 千晶(山梨県森林総合研究所) |
掲載誌 |
Biodiversity and Conservation、June 2018、DOI:10.1007/s10531-018-1577-z(外部サイトへリンク) |
内容紹介 |
近年、山村での人間活動の停滞により、アヤメやヤマオダマキ(写真)のような草本種(以下、草原性草本種)の減少や絶滅が報告されており、その保全が喫緊の課題となっています。森林を伐採すれば明るい環境を作り出すだけでなく、その後の地拵えや下刈りによって地表面を撹乱するので、草原性草本種の保全に役立つ可能性があります。しかし、日本各地で増加しているニホンジカ(以下シカ)がせっかく芽生えた草原性草本種を食べてしまうことも危惧されます。どのような森林施業を行えば、草原性草本種を保全できるのでしょうか。 私たちは、シカが高密度に生息する地域に、皆伐実施区、皆伐+下刈り実施区、皆伐+下刈り+シカ柵設置区(以下シカ柵設置区)、そして対照区(カラマツ人工林)を設け、皆伐から2年後に植生調査を行い種組成や草丈を比較しました。その結果、シカ柵設置区では草原性草本種の出現種数が特に増加し(図)、さらに草丈も高くなっていました。一方、皆伐実施区や、皆伐+下刈り実施区では、シカが嫌いな植物や、シカに食べられることに耐性がある種だけが増え、草原性草本種の数はあまり増加しませんでした。 この結果は、草原性草本種を保全するためにはシカの存在を強く意識する必要があり、シカが高密度に存在する場所では伐採だけでなく、シカに食べられないような防除策を施すことが重要であることを示しています。多くの場所でシカを考慮した森林施業を行わざるを得ない現状において、本研究の成果は生物多様性に配慮した森林施業方法を選択するための根拠を提供します。
図:処理区ごとの調査区あたりの草原性草本種の出現種数の箱ひげ図。各箱中の太線の位置は中央値(全データを値の大小に従って並べた時に50%となるデータ)、点線ははずれ値を除いたデータの最大値と最小値、丸ははずれ値を示す。
写真:草原性草本種の一つであるヤマオダマキ |
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