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伐採時に木を残す保持林業は森林性甲虫類の保全に効果がある

2021年4月7日掲載

論文名

Effects of dispersed broadleaved and aggregated conifer tree retention on ground beetles in conifer plantations.(広葉樹単木保持と針葉樹群状保持が針葉樹人工林の地表性甲虫類に及ぼす影響)

著者(所属)

山中 聡(北海道支所)、山浦 悠一(四国支所)、佐山 勝彦(九州支所)、佐藤 重穂(四国支所)、尾崎 研一(北海道支所)

掲載誌

Forest Ecology and Management Vol.489、Elsevier 2021年 DOI:10.1016/j.foreco.2021.119073(外部サイトへリンク)

内容紹介

森林を皆伐する際に、一部の樹木や倒木などを伐採後も長期にわたって残す森林管理手法を保持林業(保残伐施業)と呼びます。この保持林業は、木材生産と森林の生物多様性の維持とを両立させる方法として注目され、多くの国や地域で実施されています。しかし、アジア地域の針葉樹人工林では、保持林業の効果はこれまでほとんど検証されてきませんでした。

そこで、北海道の針葉樹(トドマツ)の人工林で行われている保持林業の実証実験地において、オサムシ類注)を対象に、保持林業の二つの手法(広葉樹を単木で残す広葉樹単木保持と針葉樹をまとめて残す針葉樹群状保持)が多様性に及ぼす効果を調べました。その結果、伐採地に残す広葉樹の本数が増えるほど、森林性オサムシ類の種数と個体数の減少が抑えられること、伐採地にまとめて残した針葉樹林の中では森林性種の個体数が減少せず、伐採地全体の個体数・種数をある程度下支えすることがわかりました。これらの結果は、保持林業のいずれの手法でも、伐採地に残された木々が森林性種の生息環境を提供し、伐採の負の影響を緩和したことを示しています。

本研究から、保持林業は日本の針葉樹人工林においても森林昆虫の保全に有効であることが示唆されました。現在、日本には伐採適期を迎えた人工林が多く存在します。保持林業は、これらの人工林で生物多様性に配慮しつつ木材生産を行うための選択肢の一つになると考えられます。

 

注)オサムシ類は地表徘徊性の甲虫で、環境変化に鋭敏に反応することから、森林管理が地表の生物に及ぼす影響を検証するために用いられることの多い分類群です。

 

(本研究は2021年3月にForest Ecology and Managementでオンライン公表されました。)

 

写真:保持林業の実証実験区の様子

写真:保持林業の実証実験区の様子。
広葉樹単木保持は、残す木の本数を変え、小量(10本/ha)・中量(50本/ha)・大量(100本/ha)の三つのパターンの実験区を設置しています。針葉樹群状保持は、実験区の中央にトドマツをまとめて(0.36ha)残しています。比較の対象として、伐採をしない針葉樹(トドマツ)人工林を設置しています。

 

 

図:保持林業を実施した際の森林性オサムシ類の個体数と種数の推定値

図:保持林業を実施した際の森林性オサムシ類の個体数と種数の推定値。

野外調査から得られた結果をもとに、伐採地に残す木の本数を変えた場合を想定し、広葉樹単木保持と針葉樹群状保持それぞれで保持の効果を推定しました。その結果、いずれの手法でも森林性種の個体数と種数は残す木の本数に従って増加すること、どちらの方法も同等の効果があることが推測されました。図中の曲線は、広葉樹単木保持と針葉樹群状保持それぞれの推定値の中央値を、色が塗られた部分はそれらの推定値の幅を示しています。また黒い丸と垂線は針葉樹(トドマツ)人工林での推定値の中央値とその推定値の幅を示しています。

 

写真と図は、出版社から許可を得て、論文中の図を元に作成しました。

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