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スギ赤枯病を1時間で診断する技術を開発

2021年6月14日掲載

論文名

Rapid detection of Passalora sequoiae causing needle blight on Japanese cedar(スギ赤枯病菌Passalora sequoiaeの迅速検出)

著者(所属)

安藤 裕萌、升屋 勇人(きのこ・森林微生物研究領域)

掲載誌

Journal of Forest Research、Vol.26、p136-142、2021年2月 DOI:10.1080/13416979.2021.1882046(外部サイトへリンク)

内容紹介

スギ赤枯病菌Passalora sequoiaeは、過去の拡大造林期にスギの苗木生産に深刻な被害をもたらしました。近年、再造林施業に向けて造林苗木の需要が高まる中、再び本病害の流行の兆しがみえています。赤枯病の疑いのある苗木が見つかった際には、被害の拡大を防ぐために、ただちに策を講じる必要があります。しかし、外観的症状による診断は難しく、類似する他の病害もあるため、誤診のリスクがあります。そこで、私たちは迅速かつ正確に病原菌を検出するため、分子生物学的手法を取り入れた新たな診断技術を開発しました。

今回開発したのは、広く普及しているPCR法、および、等温核酸増幅法の1つとして注目されているRPA法注)を用いたスギ赤枯病菌の迅速な検出方法です。本手法により、赤枯病に罹病した針葉から抽出したDNAを用いて、PCR法では約3時間、RPA法では約1時間で病原菌を検出することが出来ました。

PCR法は、一般的な遺伝子増幅技術として様々な研究機関で取り入れられているため導入が容易で、またRPA法よりも低コストで検出を行うことが出来ます。一方、RPA法は、温度を一定(37~42℃)に維持することで増幅反応が進むため、PCR法のような特別な機器を必要としない利点があります。また、RPA法は短時間で結果が得られるため、より現場での使用に適した検出方法と言えます。この成果は、赤枯病の早期診断と防除に役立ち、スギ苗木の安定生産に貢献します。

注)RPA:リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(Recombinase Polymerase Amplification)。一定の温度に維持することで、DNAを増幅することが出来る等温核酸増幅法の1つ。PCR法と比べて、DNAの増幅反応にかかる時間が短く、サーマルサイクラー(PCR法によるDNA増幅反応のために繰り返しの温度変化を行う機器)のような特別な機器を必要としないなどの利点があります。

(本研究は、2021年2月にJournal of Forest Researchで公表されました。)

 

写真:スギ赤枯病の被害が発生した苗畑
写真:スギ赤枯病の被害が発生した苗畑

 

図:DNA抽出に用いた針葉 他
図:

(a) DNA抽出に用いた針葉。

1:発病程度の大きいスギ赤枯罹病針葉、2:発病程度が中程度のスギ赤枯病罹病針葉、3:発病初期のスギ赤枯病罹病針葉、4:発病がみられないスギ針葉、5:他の病害(フォマ葉枯病)に罹病した針葉、6:他の病害(ペスタロチア病)に罹病した針葉。

(b) PCR法による検出結果(M:サイズマーカー、1~6:DNA抽出に用いた針葉の番号と一致)。

(c) RPA法による検出結果(M:サイズマーカー、1~6:DNA抽出に用いた針葉の番号と一致)。

サイズマーカー(DNA断片の長さを示す指標)の100bpと500bpの間にみえる白いバンドが、スギ赤枯病菌の増幅されたDNA断片を示します。スギ赤枯病菌の感染した針葉(1~3番)ではDNA増幅があり、健全または他の病害に罹病した針葉(4~6番)ではDNA増幅が無いことが確認できます。 

お問い合わせ先

【研究推進責任者】
森林総合研究所 研究ディレクター 正木 隆
【研究担当者】
森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域 安藤 裕萌
【広報担当者】
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