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掲載日:2023年2月3日
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で近年見直された「脆弱性」の考え方や定義について、気候変動による脆弱性評価に関する学術研究での使用は3%に過ぎないことが文献調査で分かりました。この見直しは「気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク管理に関する特別報告書(SREX:2012年公表)」と「第5次評価報告書(AR5:2014年公表)」で行われたものです。これらの報告書で改訂された脆弱性概念の意味と運用について、これまで集中的な議論が行われなかったことが、その採用率の低さの一因となった可能性があります。
研究グループは、2017年から2020年にかけて発表された気候変動の脆弱性の評価に関する学術研論文464編を調査しました。新たな「脆弱性」を使用しなかった理由として、研究者の嗜好、誤った理解、定義の混同、そして定義の改訂自体に気づいていない可能性などが推測されました。
「脆弱性」は気候変動対策を考える上で重要な視点で、自然を含めた各種システムにおける影響の受けやすさや対処できない度合などを意味します。かつては「曝露、感受性、適応能力の関数」などと定義されていました。脆弱性評価からリスク評価への枠組に転換されたSREXとAR5で「感受性と対処及び適応能力の関数」などとする新たな定義に変更されました。
今後議論を進めるにあたっては、脆弱性に関するIPCCの新たな考え方や定義が以前のそれらを事実上取り消すものなのかも含め明確にすることが望まれます。
(本研究は、2022年11月にAmbioにおいてオンライン公開されました。)
図 IPCCにおける気候変動影響のアセスメントに関する枠組み。
(a) 第3次評価報告書(TAR)及び第4次評価報告書(AR4)での脆弱性アセスメント(V)の枠組み。
(b) 気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク管理に関する特別報告書(SREX)と第5次評価報告書(AR5)で適用されたリスクアセスメント(R)の枠組みで、第6次評価報告書(AR6)でも採用されている。TARとAR4では、曝露とはハザード中心の考え方(熱波持続指数、干ばつの強度、洪水発生などの指標)であったが、SREXとAR5では曝露された要素(リスクのある人、資産、生態系など)に変化している。
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