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スギとヒノキの特性をめぐる研究は時代背景に応じてどう変化したのか

掲載日:2023年11月20日

国内林業の重要樹種スギ・ヒノキの生理・生態をテーマにした研究数は、戦後復興による造林拡大を背景に1980年代後半まで増え続けましたが、その後は減少傾向が続いていることが、過去70年の文献調査で分かりました。近年、気候変動の影響評価や国産材の生産拡大に伴う再造林を支える研究ニーズが高まっており、研究の底上げを図ることが急務になっています。

研究グループは、当所が公開している「スギ・ヒノキ形質データベース検索システム」を使って研究の件数や内容を集計し分析しました。その結果、1950年から研究の数は増え続け1980年代後半に最多になりましたが、その後は、増減はあるものの減少傾向に転じていました。また、研究の本数だけでなくその内容も大きく変わっていました。戦後復興で人工林が急拡大した1950~80年ごろ(拡大造林期)は、人工林の生産力や、施肥の効果を明らかにする研究が大半でした。外材に押され、国産材生産が低迷した1980~2000年ごろ(自給率低迷期)には、生産力や施肥の研究はほとんどなくなりました。しかしこの時代から、温暖化など環境問題や長伐期・高品質化に対応する研究の必要性が高まり、光合成や水分生理能力から環境適応性を評価する研究や材質に関する研究が増えました(図)。

国産材への需要が再び高まった2000年ごろから(自給率回復期)は、再造林に伴う低コスト林業などの新たな研究ニーズが生まれたものの、研究総数は1980年代後半の半分に減少しました。一方、低コスト林業に加え気候変動による人工林や木材生産へ影響予測など、スギとヒノキに関する生理生態学的な研究ニーズは大きく、今後も、技術革新や林業や森林をとりまく社会的・環境的背景の変化を受けながら研究が続けられると考えられます。

スギ・ヒノキ形質データベース検索システム…スギとヒノキに関する文献を1950年代から網羅的に収集し、光合成や材密度、葉の形質など177の特性についてデータベース化しました。データ収録数はスギ16400点、ヒノキ8300点を超え、樹種に特化したデータベースとして世界最大規模です。https://db.ffpri.go.jp/SugiHinoki-TraitDB/index.html

本研究は、森林立地において2023年6月に公表されました。)

 

図:研究総数、主なテーマ別の研究数の変化と主要トピック

図 研究総数、主なテーマ別の研究数の変化と主要トピック(田中ら2023を改変)
近年は英文で書かれた研究が増え国際化が進みましたが、研究の総数は減少しています。
注:IBPとは国際生物学事業計画のことで、様々な生態系の生産力を明らかにするために1965年から10年間行われた国際プロジェクトです。なお研究内容や数を集計するために、森林総合研究所「スギ・ヒノキ形質データベース検索システム」を利用しました。

 

  • 論文名
    1950年以降のスギとヒノキの生理生態学的研究に関する文献数の変化とその社会・環境的な背景
  • 著者名(所属)
    田中 憲蔵(国際農林水産業研究センター)、大曽根 陽子(元森林総合研究所PD)、橋本 昌司(立地環境研究領域)
  • 掲載誌
    森林立地 65(1)、29-37、森林立地学会2023年6月 DOI:10.18922/jjfe.65.1_29(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 平井 敬三
  • 研究担当者
    立地環境研究領域 橋本 昌司

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