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スギ苗の成長がよい場所をみきわめて下草刈り経費を削減する

掲載日:2024年1月19日

高知県の林業施業地で大規模なスギ苗の植栽試験をおこない、地形の特徴から苗がよく育つ場所を判断することができ、こうした場所では下草刈りの回数を削減できることを明らかにしました(写真1)。苗の植栽後におこなう保育注1) の経費を抑えることができ、皆伐後の再造林を確実に進めていくために役立つ成果です。

地拵え注2) 直後にドローン撮影で得られた地形データからTRI注3) という地表面の形状の特徴を表す指標を計算しました。またそこに植えたスギ苗木の樹高成長を3年間調査しました。するとTRIと植栽3年後のスギ苗の樹高に相関関係がある事がわかりました。この関係から2年間下刈りを行ない、3年目に下刈りの必要がなくなる確率を個体ごとに推定すると、数十メートルの幅で下刈りが必要なくなる確率の高い場所があることがわかりました(図1)。近年、林業現場に導入されているドローンを活用すれば、施業前に地形データを取得し、早期に下草刈りを完了できる場所を予想することができます。

国内の林業界では採算性の改善が叫ばれて久しく、植栽や下草刈りなど再造林にかかる作業経費の削減が求められています。とりわけ苗の植栽後に数年間、毎年おこなわれる下草刈りは保育経費の大きな割合を占めており、それを少しでも削減するための新しい知見です。

注1) 保育(ほいく):苗木が健全に成長するようにおこなう作業全般を指す。苗を植えた後に周りの草木を刈り払う下草刈り(下刈り)、苗に巻き付くツルを取り去るツル切り、不要な樹木を取り除く除伐、といった作業を含む。

注2) 地拵え(じごしらえ):伐採地に苗木を植える前に、散らばった樹木の枝や丸太を片付けて苗木を植える場所を整える作業。地拵えの直後には地面が見えて、斜面の地形がよくわかる状態になっている。

注3) TRI:Terrain Ruggedness Indexとは、ある地点の地形変化の大小を示す指標。値が小さいと、傾斜が緩いあるいは凸凹が少ないといった穏やかな地形であることを示す。

本研究は、森林学会誌において2023年11月に公開されました。)

写真1:下草刈り後のスギ苗の様子
写真1:下草刈り後のスギ苗の様子。
苗を健全に育てるには、苗が下草よりも大きく育つまで下草を刈り払う必要があります。苗が早く育てば、下草刈りをより早くに完了できると期待されます。

図1:植栽3年後にスギ苗が下草より大きく育つと予想される確率の分布
図1:植栽3年後にスギ苗が下草より大きく育つと予想される確率の分布。
0.8以上の高い確率(緑丸)となるのはTRIの小さい場所(地表面の変化が穏やかな場所、白や薄灰色の背景)に集まっている。このことは、TRIのような地形の指標から下草刈りを早期に完了できる場所を予想できることを示している。灰色曲線は3m間隔の等高線。黒曲線は植栽試験地の外枠。

 

  • 論文名
    優良スギ苗品種や土壌・地形条件による成長差を利用した下刈り省力
  • 著者名(所属)
    大谷 達也・米田 令仁・福本 桂子(四国支所)・山川 博美(九州支所)
  • 掲載誌
    森林学会誌、105(11)、329-337、日本森林学会、2023年11月 DOI:10.4005/jjfs.105.329(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 宇都木 玄
  • 研究担当者
    四国支所 大谷 達也

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