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大気中の窒素酸化物などの濃度が高いと、落葉広葉樹と常緑針葉樹から林床への供給量に差が生じる

掲載日:2024年4月12日

大気中を浮遊する、窒素酸化物や海塩などの物質は、都市や農地など多様な地表面に沈着し、水に溶けると溶存イオン物質となり土壌酸性化や河川の富栄養化の原因になります。森林への沈着では、まず枝葉に乾性沈着*1) し、その量は葉の量・形状によって増減します。その後、雨水により洗い流されると同時に、枝葉や樹皮での溶脱や吸収*2) が起こり、それらは水に溶けた溶存イオン物質として林床に供給されます。

大気中の物質が多い地域の森林では、落葉広葉樹に比べて常緑針葉樹では林床に溶存イオン物質がより多く供給されるが、大気中の物質が少ない地域の森林では、落葉広葉樹と常緑針葉樹の林床への溶存イオン物質供給量に違いがないことが分かりました。大気環境が改善してきている我が国では、落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の林床への物質供給量を正確かつ広域に予測するのに役立つ成果です。

研究グループは、車など人間活動に由来する窒素酸化物など大気中の物質が多い東京都内と少ない埼玉県秩父地方それぞれの森林において(図1)、大気中の物質の多寡による林床への溶存イオン物質供給量の違いを比較しました。

その結果、東京都内の森林では、葉の形状や落葉期の葉残存によって乾性沈着の捕捉効率が大きく異なり、常緑針葉樹がより多くの溶存イオン物質を林床へ供給していました(図2)。一方、秩父地方の森林ではこうした違いが見られませんでした(図2)。このことから、大気中の物質の多寡によって、林床への溶存イオン物質の供給量に森林タイプによる差が生じるかどうかに影響していることを示唆していました。

*1) 乾性沈着:無降雨時に大気中のガスや粒子の形で物質が地上に落ちてくること

*2) 溶脱や吸収:葉や枝、樹皮の内部に含まれる物質が雨水に溶け出たり、逆に雨水に含まれる物質が葉や枝、樹皮の内部に吸収されたりする

本研究は、Environmental Monitoring and Assessmentにおいて2024年1月にオンライン公開されました。)

図1:クヌギ林とスギ林における雨水による林床への物質供給量の観測風景
図1:都内の落葉広葉樹林(クヌギ林)と常緑針葉樹林(スギ林)における雨水による林床への物質供給量の観測風景。
図2:樹種間での葉の形状や落葉期における葉残存の違い
図2:大気中の物質が多い地域の場合、樹種間での葉の形状や落葉期における葉残存の違いにより常緑針葉樹林の方が、乾性沈着量が多く、そのため林床への物質供給量でも多い結果が得られました。一方、大気中の物質が少ない地域の場合、森林タイプ間での差は明瞭ではありませんでした。

  • 論文名
    Factors influencing the difference in dissolved ion inputs to the forest floor between deciduous and coniferous stands: Comparison under high and low atmospheric deposition conditions.(落葉広葉樹と常緑針葉樹の林床への溶存イオン物質流入の違いに影響している要因:大気沈着量の多寡環境下の比較を通して)
  • 著者名(所属)
    今村 直広(北海道支所)、大手 信人(京都大学)、田中 延亮(東京大学)
  • 掲載誌
    Environmental Monitoring and Assessment、196、1、Springer、2023 DOI:10.1007/s10661-023-12132-6(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 玉井 幸治
  • 研究担当者
    北海道支所 今村 直広

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