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リンの使われ方が葉の機能に関わることを解明

掲載日:2024年5月17日

光合成活性や窒素濃度といった葉の機能特性は樹種によって大きく異なりますが、この二つの特性は葉内のリンがどのような形で存在するかと関係することがオーストラリアでの森林調査から分かりました。光合成を担う葉の機能を制御するリンの役割の一端を解明した本成果は森林生態系の炭素収支の予測などに貢献することが期待されます。

リンは、光合成や遺伝子発現、膜構造などに必須ですが、土壌中で欠乏しがちです。これを克服する戦略として、樹木は遺伝子発現量を低下させたり、リン脂質を糖脂質や硫黄脂質に置換したりすることが知られていますが、葉の機能との関係はよく分かっていませんでした。

そこで、研究グループは2019-2020年にかけて、リン肥沃度が異なるオーストラリアの3カ所の森林からユーカリやヤマモガシなど35樹種の葉を採取しました。葉に含まれているリンの濃度を1)液胞内でのリン貯蔵などに関わる無機態、2)光合成などに関わる代謝態a) 、3)DNAなど含まれ遺伝子発現に関わる核酸態、4)細胞膜などに含まれる脂質態、5)タンパク質などを含む残渣(ざんさ)態b) のそれぞれに分けて測定し、葉の光合成活性や窒素濃度などとの関係を解析しました。

その結果、低リン土壌に分布し葉のリン濃度が低い樹種では、葉内のリン貯蔵量などを反映する無機態やタンパク質合成に関わる核酸態のリン濃度が特に低いことが分かりました。光合成のリン利用効率c) が高い樹種ほど膜構造を構成する脂質態へのリン分配率が低いことも示されました。また、葉の窒素濃度が高い樹種ほどタンパク質の合成に関わる核酸態リンの濃度が高いことも明らかになりました。タンパク質は葉内の窒素化合物の大部分を占めるので、葉の窒素濃度は葉のタンパク質濃度を反映していると予想されました。

a) 光合成に必要な糖リンやエネルギー輸送に関わるATPなど、低分子の代謝物。

b) 本研究の抽出法では抽出されなかった残渣で、主にタンパク質から構成されている。

c) 葉内の単位リンあたりの光合成速度で定義され、値が高いほど光合成で効率よくリンを利用していることを示す。

本研究はNew Phytologistにおいて2024年2月に公開されました。)

図1:オーストラリアの樹木の多様な葉
図1:オーストラリアの樹木の多様な葉
モクマオウの仲間(Allocasuarina littoralis、左上)、ユーカリの仲間(Angophora hispida、右上)、トベラの仲間(Pittosporum undulatum、左下)、ヤマモガシの仲間(Banksia spinulosa、右下)

図2:光合成のリン利用効率と脂質態へのリン分配率の関係
図2:光合成のリン利用効率と脂質態へのリン分配率の関係(a)、及び葉の窒素濃度と葉の核酸態リン濃度の関係(b)
光合成のリン利用効率は数値が高いほど、光合成でリンを効率よく利用していることを示す。

  • 論文名
    Leaf phosphorus fractions vary with leaf economic traits among 35 Australian woody species(葉リン画分はオーストラリアの35樹種間で葉経済形質と関係して多様化する)
  • 著者名(所属)
    辻井 悠希(植物生態研究領域、マッコーリー大学、西シドニー大学、九州大学)、Brian J. Atwell(マッコーリー大学)、Hans Lambers(西オーストラリア大学)、Ian J. Wright(西シドニー大学、マッコーリー大学)
  • 掲載誌
    New Phytologist、241: 1985-1997、February 2024 DOI: 10.1111/nph.19513(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 佐藤 保
  • 研究担当者
    植物生態研究領域 辻井 悠希

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