研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2024年紹介分 > 紅葉もたらす色素、デンプンに代わって糖上昇抑え早期落葉回避
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掲載日:2024年7月29日
「紅葉」は赤い色素であるアントシアニンの集積によって生じることが知られています。ハウチワカエデを対象としてアントシアニンの機能を詳細に調べたところ、これまで提唱されていた「遮光効果」ではなく、光合成によって作られた糖をアントシアニン合成に使うことで糖濃度の上昇を抑制するとともに、光合成を滞らせないことで活性酸素の発生を抑える働きがあることがわかりました。
糖とデンプンの季節変化を詳細に調べたところ、ハウチワカエデでは、秋に葉の窒素を回収する時期を迎えるとデンプン合成が行われなくなり、残存するデンプンは糖へ分解されることが明らかになりました。デンプンは水に溶けないため生命現象にほとんど影響を与えない、光合成産物の貯蔵や糖濃度を調節するためのバッファーとして非常に優れた物質として知られています。デンプンが作れない状況で光合成を続けると、糖濃度が上昇することで老化が進み落葉時期が早まるとともに、光合成で作られた糖の消費が滞ることで光エネルギーを使い切れず活性酸素を生じるおそれがあります。
アントシアニンは、光合成によって作られた糖を使って合成されたアントシアニジンがいくつかの糖分子と結合した配糖体の総称であり、生理的に不活性な液胞内に隔離されて集積することが知られています。デンプン合成の停止に対応して、日当たりが良く光合成を活発に行う樹冠表層の葉ではアントシアニンを液胞に集積することで早期落葉と活性酸素による障害を回避していると考えられます。
(本研究は、Journal of Experimental Botanyにおいて2024年3月に公開されました。)
写真:ハウチワカエデ紅葉(2021年10月28日撮影)
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