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アラスカのイソツツジ二種が永久凍土環境により棲み分ける仕組みが明らかに

掲載日:2024年11月29日

永久凍土*1) が不連続に分布するアメリカ合衆国アラスカ州内陸地域において現地調査を行った結果、低木イソツツジの近縁2種が「活動層*2) の厚さ」など永久凍土の環境条件の違いによって棲(す)み分けている可能性があることが分かりました。温暖化で急速に進む永久凍土の融解によって、北極を取り囲む陸域の植生がどう変化していくのかを解明する手掛かりになる知見です。

研究グループは2022年、永久凍土がモザイク状に広がるアラスカ内陸部の不連続永久凍土帯で、イソツツジ2種の生育環境や葉の形質*3) を調査しました。その結果、活動層が浅く土壌が湿潤で永久凍土の影響が強い疎林では、窒素が少なく厚くて小さな葉を持つ矮性種「Northern Labrador tea (Rhododendron tomentosum)」が多く分布していました。一方、活動層の深い、または永久凍土がない、土壌が比較的乾燥した森林では、窒素が多く薄くて大きな葉を持つ種「Bog Labrador tea (Rhododendron groenlandicum)」が多く分布していました。これらのことから両種は、永久凍土の条件によって棲み分けしていることがうかがえました*4) 

永久凍土の影響が強いほど低温で貧栄養な環境になりますが、イソツツジは葉の形質を変化させて、永久凍土環境の変化に適応してきたと考えられます。

*1) 永久凍土:複数年にわたって凍結している土壌や母岩。北半球の大陸の約2割に広がっている。

*2) 活動層:永久凍土上で夏季に融解する土壌層。

*3) 葉形質:葉の機能と関わる性質。大きさ、厚さ、栄養濃度など。

*4) 棲み分け:生活様式の似た複数の種が同じ地域に分布するとき、空間的・時間的に生息範囲を分けて共存していること。

本研究は、Polar Biology Volume において2024年7月に公開されました。)

写真1:イソツツジの近縁2種の典型的な枝葉と花
写真1:イソツツジの近縁2種の典型的な枝葉と花
 

写真2:永久凍土上の疎な針葉樹林と永久凍土の無い密な針広混交林
写真2:永久凍土上の疎な針葉樹林(A)と永久凍土の無い密な針広混交林(B)

 

  • 論文名
    Permafrost conditions influence the abundance, distribution, and leaf traits of two closely related dominant shrub species (Rhododendron subsect. Ledum) in interior Alaska(永久凍土条件はアラスカ内陸部のツツジ属イソツツジ亜節の近縁2種の優占度や分布、葉形質に影響する)
  • 著者名(所属)
    甘田 岳(立地環境研究領域)、岩花 剛(アラスカ大学国際北極圏研究センター)、野口 享太郎(立地環境研究領域)、 松浦 陽次郎(生物多様性・気候変動研究拠点)、Yongwon Kim(アラスカ大学国際北極圏研究センター)、Bang-Yong Lee(韓国極地研究所)、小林 秀樹(海洋研究開発機構)
  • 掲載誌
    Polar Biology、1-16、Springer、2024年7月 DOI:10.1007/s00300-024-03284-3(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 平井 敬三
  • 研究担当者
    立地環境研究領域 甘田 岳

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