森林総合研究所 所報 bQ4・2003-3
 
「森林の多面的機能」
解説シリーズ

第7回 水辺林の生態学的機能
森林植生研究領域  鈴木和次郎
 
水辺林とは何か?
  河川、湖沼、湿地周辺の水辺域には、山地・丘陵の斜面に成立する森林とは群集組成が大きく異なる森林が成立している。こうした森林群集には、個別に谷底の狭い渓流沿いに成立する渓畔林、平野部の広い氾濫原に成立する河畔林、あるいは湖沼や湿地周辺に成立する湖畔林・湿地林があり、総称して水辺林と呼ばれる。水辺林を特徴づけるものは、河川・湖沼など水域からの物理的・生理的影響である。すなわち、降雨や融雪に伴う河川や湖沼の氾濫、土石流など物理的な撹乱に加え、常時、流水や停滞水などの水分環境にさらされる中で、森林が成立し、維持されるという特徴を持つ。一方、こうした森林群集は、河川や湖沼など水域の環境形成にも大きな影響を及ぼしている。河川上流域の小河川では、水辺林の林冠層が日射を遮断し、河川水の温度上昇を抑え、樹冠から供給される落葉落枝、落下昆虫は河川生態系の栄養源となり基礎生産を支える。また、洪水時の渓岸侵食により流路内に流入した倒流木は、土砂の捕捉や流路変更などを通じ河川地形の形成に関与する。このような水域と陸域との相互作用の上に成り立つ水辺林の持つ特徴的な林分・群集構造やその動態はさまざまな生態学的機能を生み出している。

水辺林は、移動回廊、難民キャンプ!?
  水辺林は、降水時に陸域からの土砂濁水を捕捉、河川への流入を阻止する一方、汚濁水そのものを浄化する機能を持ち水質維持に寄与する。また、倒流木による多様な河川地形の形成や落葉・落下昆虫の供給は、水域生態系の基礎生産を支え、また水生生物の生息場所の形成に大きな役割を果たしている。一方、水辺域は、水域から陸域への推移帯(エコトーン)に当たり、その特異な環境からさまざまな野生生物の生息場所となっている。水辺林自体も多様な樹木群集から成り立つ場合が多く、低頻度出現種や希少樹種(遺存種)の生存も可能な“難民キャンプ”的な役割を果たしている。そうした結果、水辺林(域)は、地域の生物多様性維持に大きく貢献するといわれる。また、水辺林は、水辺域に依存的な生物種の生息場所にとどまらず、多くの野生生物にとっての移動・分散のための「生態学的回廊」の役割も果たしているとされている。
 水辺林の修復・再生が大きな課題!
  このような水辺林の生態学的機能は、地域生態系の健全性の維持につながるばかりか、流域の人間生活にも大きな役割を果たしてきた。水辺林の存在は、水防林などとして土砂災害、水害を軽減する一方、生活・産業用水の水質を維持供給し、河川環境を保全する中で内水面漁業に貢献し、さらに河川と森林が一体となって優れた風景を構成し、レクリエーションの場を提供する。しかしながら、日本の高度経済成長期を通じ、こうした水辺林は森林開発や土地利用の高度化の中で、急速に損なわれ、本来の姿を失ってきた。上流域では、拡大造林の結果、水際まで針葉樹が植栽され、中下流域では河川改修が進み、水辺環境そのものがなくなってしまった。そうした結果、水辺林の持つ生態学的機能は損なわれ、あるいは著しく低下している。もしも、水辺林の本来の姿、生態学的機能を取り戻そうとするならば、水辺林の理解と再生・修復のための試験・研究にとどまらず、集水域を対象とする実証的な修復・再生事業の取り組みが急務である。


渓畔林に守られ、生きるイワナだが釣り師に
かかっては・・・


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