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更新日:2012年2月1日

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自然探訪2012年2月 クヌギ

クヌギ(Quercus acutissima)

クヌギはブナ科の落葉高木で、コナラなどと並んで里山林を代表する樹木のひとつです。よく似た種類にアベマキがありますが、アベマキの方が樹皮のコルク層が厚く、葉の裏が白いことで区別できます。
薪や柴などに利用されたほか、炭材としてもとくに優良です。木炭にしたときに断面が菊のような模様となることから菊炭と呼ばれ、茶の湯の席で用いる炭として好まれます。現在も、大阪と兵庫の府県境付近の北摂地域や、栃木県などではクヌギの萌芽林施業による炭材の生産がおこなわれています。こうした萌芽林施業では、伐採周期は7~10年ほどで、スギなどの用材生産を目的とした施業とくらべても、他の一般的な広葉樹の萌芽林施業とくらべても伐採周期が短いのが特徴です。
北摂のクヌギ萌芽林といえば、高さ1mほど、あるいはそれ以上の高さで幹を切って仕立てた台場クヌギが有名です。幕末の農書『広益国産考』にも台場クヌギの記述があります。

此くぬぎの木といへるハ野山に生立て元の廻り一トかゝへ又一トかゝへ半もありて、壱丈ほどの上より数百本枝出たり。此枝といへるハ元株より出たるハ廻り五寸より壱尺位になりたるを、冬に伐はらひ、炭に焼出すに池田炭とて世間茶の湯ニ用ふる也。

もっとも、すべてのクヌギ萌芽林が、台場クヌギとして仕立てられているわけではありません。台場クヌギに仕立てる理由としては、シカなどの動物の食害を防ぐためとか、萌芽枝の成長が良くなるため、あるいは目印とするためなどさまざまな理由が挙げられていますが、おそらくさまざまな理由があったのでしょう。
遺伝的解析からは、クヌギでは他の樹種で見られるような地域的な傾向が見られないことから、過去、苗木がさかんに人為的に移動されて各地に植えられたのではないかと推定されています。実際、明治期以降、田中長嶺(たなかながね)らによりクヌギの植林が各地で奨励されていました。田中長嶺は、『炭焼手引草(すみやきてびきぐさ)』や『香蕈培養図解(こうじんばいようずかい)』といった本を著して、林産物の生産の指導をおこなった人ですが、『散木利用編第二巻』ではとくにクヌギについて施業法を解説しています。

写真1:クヌギの花
写真1. クヌギの花 

 写真2:台場クヌギ
写真2. 台場クヌギ 

写真3:クヌギ萌芽林
写真3. クヌギ萌芽林


写真4:田中長嶺『散木利用編第二巻』(国立国会図書館蔵)より
田中長嶺『散木利用編第二巻』(国立国会図書館蔵)より(JPG:246KB)

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