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更新日:2014年4月1日

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自然探訪2014年4月 チガヤ

チガヤ(Imperata cylindrica

チガヤ(Imperata cylindrica)はイネ科チガヤ属の多年生草本で、アジア、アフリカ、オーストラリアの広い範囲に分布しています。日当たりの良い土地を好み、しばしば純群落を作ります。長さ数十センチの細長い葉をほぼ垂直に伸ばし、初夏には銀白色の穂を出します。地下に太い匍匐茎を持つために耕起や火災に強く、畑などに侵入すると駆除が難しい植物です。国際自然保護連合(IUCN)が2000年に定めた世界の侵略的外来種ワースト100にもリストアップされ、世界最強の雑草などと呼ばれることさえあります。

写真はインドネシアのカリマンタン島のチガヤ草原です。畑、特に何年も鍬によって耕された畑が放置されるとほぼ純粋なチガヤ草原になります。また、チガヤ草原では火災が起きやすく、特に人里近くでは毎年のように火災が発生します。そのために他の植物が生育できず、長期に渡ってチガヤ草原のまま森林に回復しません。火災さえなければ遷移が進み、イチジク類やノボタン類などが次第に侵入して、やがては遷移初期種からなる二次林が発達しますが、広大なチガヤ草原では、周辺に種子源となる森林がない場所が多いため、極相種からなる本来の森林の姿に戻るには極めて長い時間がかかると言われています。

日本でも古くから野焼きによってチガヤ草原が維持されており、身近な植物としてさまざまに利用されてきました。チガヤは古くは茅(チ)と呼ばれ、花穂は茅花(チバナまたはツバナ)と呼ばれました。チガヤの葉は屋根を葺くのに利用され、地下茎は漢方薬としても使われます。現在は笹の葉で巻くことが多い「ちまき」も本来は「茅巻」であり、チガヤの葉によって巻かれた食べ物でした。丈の低いチガヤ草原は浅茅、あるいは浅茅原として荒涼とした景色を表す言葉として和歌にも詠まれました。

チガヤはサトウキビとも比較的近縁の植物で、若い穂や地下茎に糖分が蓄積して甘くなるため、近年でも野遊びの子供がおやつとして食べていました。古くはもっと一般的な食べ物だったようで、万葉集にも以下のような掛け合いの歌が残されています。
紀郎女:戯奴がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花ぞ食して肥えませ(あなたのために、私が春の野で抜いてきた茅花です。これを食べて肥ってくださいな)
大伴家持:我が君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す(いただいた茅花を食べても、あなたへの恋の苦しさにますます痩せてしまうばかりです)
現在では採草や野焼きはあまり行われなくなったため、日本では一面のチガヤ草原を見かけることは少なくなっています。しかし、今でも道路脇や土手、畦など、頻繁に草刈りが行われる場所ではごく普通に見ることができます。四月から五月ごろ、信号待ちなどで路傍に目をやると、動物の尻尾のような白銀色の花穂がびっしりと風にそよいでいる姿が見られると思います。


写真1:インドネシアのチガヤ草原(遠景)
写真1:インドネシアのチガヤ草原(遠景)


写真2:インドネシアのチガヤ草原(近景)
写真2:インドネシアのチガヤ草原(近景)

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