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更新日:2014年6月2日

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自然探訪2014年6月 四国南西部・三本杭で見るシカが食べない草やシダ

四国南西部・三本杭で見るシカが食べない草やシダ

四国の南西端、愛媛県宇和島市の近くに三本杭(1,226m)という山があり、周辺には四国南西部ではきわめて貴重な落葉広葉樹の天然林が残されています。とくに1,000m付近から上には、四国での分布南限となるブナ林があります。しかし、近年、ニホンジカの影響が顕著になり、森林やササ原など自然植生の著しい衰退が起こっています。筆者はもともと草本やシダには詳しくないのですが、2005年からここへシカの調査に通うようになって、シカの嫌いな草本やシダにはだいぶんお馴染みが増えました。今回は、その内のいくつかを紹介します。

初めて三本杭を訪れたとき、まず山頂周辺の光景に絶句しました。山頂とその周辺ではミヤコザサのササ原が衰退して完全に裸地化してしまい、ところによってシダの一種であるイワヒメワラビが大群落を作り、また、これもシダであるヒカゲノカズラやマンネンスギが地表を覆った上にアセビの稚幼樹が育つという異様な景観(図1)を作り出していました。

ブナを含む落葉広葉樹林では林床のスズタケやミヤコザサが衰退・消滅し、標高が高い北向きの斜面では、林床に何もない状況が広がっています。上木が透けて明るい林床、とくに南向きの斜面では、場所によってシカが嫌う植物が勢力をひろげています。シダではやはりイワヒメワラビだけが目立ちます。草本では、シソ科のシモバシラ(図2)やミカン科のマツカゼソウが明るい場所で局所的に集団を作っています。

キオンは、秋に黄色い花をつけるキク科の多年草で、高知県Red Data Bookでは絶滅危惧IA類(CR)とされていますが、シカが食べないために、ここでは衰退しつつあるササ原や道路沿いに急速に広がっています(図3)。

ところで、調査地へは、国道から旧黒尊スーパー林道へ入り、登山口まで40〜50分ほど走ります。その道路沿いもシカの嫌いな植物が優占しています。標高の低い人工林では、シカが嫌うシダとして有名なウラジロやコシダが繁茂しています。このあたりには外来種のダンドボロギクやベニバナボロギクも増えています。標高400〜500mより上では、シモバシラやトラノオジソの集団が目につきます。マツカゼソウも最近多くなってきました。1,000mを越えると、秋、黄色いキオンの花の集団を見ることができます。可憐な花をつけるアケボノソウ(図4)も最近少しずつ増えていて、シカが嫌っていると思われます。

シカの個体数は各地で増えていますが、それでも昼間に山で姿を見ることはなかなかありません。しかし、ここに挙げたような何種類かの忌避植物を覚えていけば、道端を見るだけでここはシカが多そうだとわかります。


図1:ササ原の消滅した跡に広がったヒカゲノカズラやマンネンスギと、その上に育つアセビの幼樹
図1:ササ原の消滅した跡に広がったヒカゲノカズラやマンネンスギと、
その上に育つアセビの幼樹(山頂南側の鞍部、約1,170m)

図2:シモバシラは、ササの衰退している明るい林内やササ原で増加、道路沿いにも集団を作る
図2:シモバシラは、ササの衰退している明るい林内やササ原で増加、
道路沿いにも集団を作る

図3:衰退の進むササ原(ミヤコザサ)に進出・拡大しているイワヒメワラビ、キオンとススキ
図3:衰退の進むササ原(ミヤコザサ)に進出・拡大しているイワヒメワラビ、
キオンとススキ(標高1,050m付近)

図4:秋に咲くアケボノソウ(リンドウ科)
図4:秋に咲くアケボノソウ(リンドウ科)、花は直径2cmほど、茎の高さは80cmほどになる
。最近、道路沿いに増えていて、シカは忌避していると思われる

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