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更新日:2016年6月1日

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自然探訪2016年6月 食わず嫌いのサルノコシカケ

食わず嫌いのサルノコシカケ

多くのチョウの幼虫が特定の植物を餌とすることは、皆さんもご存知でしょう。モンシロチョウはキャベツなどのアブラナ科植物に、またナミアゲハはミカン科植物に産卵し、幼虫はこれらを食草とします。同じように、木に生えるきのこには特定の樹種にしか発生しない、もしくは発生の偏る種類がたくさんあります。

メシマコブ(写真1)はいわゆるサルノコシカケの一種で、健康食品の原料として広く知られています。その中国名を桑黄といいますが、これはこのきのこがクワの木に発生することにちなんだものです。メシマコブの仲間はなかなかの偏食家揃いで、近縁種であるウツギサルノコシカケ(写真2)はハコネウツギをはじめとしたタニウツギ属の樹木に、またエゾキコブタケはライラックに近縁のハシドイに限って生えることが知られています。

エゴノキタケは別グループに属するサルノコシカケの一種で、概ねエゴノキに生えます。またサワフタギタケ(写真3)はサワフタギ類に特異的に発生すると考えられています。熱帯地域の樹木に生えるきのこ類のほとんどは、従来は発生する樹種を選ばないと考えられていました。しかし最近の研究の結果、東南アジアにはフタバガキ科樹木にしか発生しないサルノコシカケが、少なからず存在することが明らかになりました。他にも、特定の樹種に発生の偏る種類が見つかっており、熱帯のきのこにも偏食家は少なくないようです。

小笠原諸島に分布するオオメシマコブというサルノコシカケは、オガサワラグワを宿主としていますが、かつては小笠原諸島の森林の優占種であったオガサワラグワが明治の開拓期の過剰伐採をきっかけに絶滅危惧に瀕してしまったために、自身も絶滅危惧の憂き目にあってしまいました。

こうした木材腐朽性のきのこに見られる宿主特異性の生態的な意義や、メカニズムについてはまだよくわかっていません。こうしたきのこのほとんどは、宿主材の成分を含まない通常の培地上でも、何の問題もなく培養することができます。自然界では決して宿主とすることのない樹種の材に菌を植えると、これらを分解して栄養とすることも可能です。

わからないことだらけの偏食性サルノコシカケですが、一つだけ確実に言えることがあります。それは、これらが宿主とする樹種が森林から消えると、これらのきのこも同時に消えてしまうということです。一種類の生物が消えるということは、その種類の喪失だけではすまないという一例です。

(きのこ・森林微生物研究領域 服部 力)

 

 

写真1:メシマコブ
写真1:メシマコブ

写真2:ウツギサルノコシカケ
写真2:ウツギサルノコシカケ

写真3:サワフタギタケ
写真3:サワフタギタケ 

 
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