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更新日:2017年8月1日

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自然探訪2017年8月 スギの雄花は夏に着く

スギの雄花は夏に着く

スギにも花言葉があるのをご存知ですか?「雄大」だそうです。小学生時代を屋久島で過ごした私には、白と緑の靄の中に浮かぶ、ヤクスギの巨木の姿が思い浮かびます。

スギは雄花と雌花をつける樹木です。小さいうちは花をつけませんが、樹齢が10年を過ぎると次第に花をつけるようになります。多くの方を悩ませる花粉が飛び始めるのは春先ですが、雄花の成長は前年の夏に既に始まっています。

スギの雄花と雌花は同時に成長を始めるのではなく、梅雨があけ、暑くなり始めるとまず雄花が着き始めます。その時期は場所・お天気・品種などによってもばらつきますが、8月には枝先の雄花が目につくようになってきます。この頃の雄花は綺麗な薄い緑色をしています。

スギの雄花の量は年によって違います。夏の気温が高く、日照時間が長い年は雄花が多い傾向があると言われています。ただ、花をたくさんつけるのにはその分のエネルギーの蓄えが必要なようで、二年続けて大量に雄花をつけることはあまりないようです。

また、人間の顔が一人一人違うように、スギも別々の種子に由来する木は、それぞれ異なる個性を持っていて、雄花のつき方も木によって大きく異なります(写真1)。スギの雄花は小さな粒(小胞子葉)が穂状に集まってつき、1つの塊(小胞子錐)になっています。小胞子葉の大きさや小胞子錐の中の小胞子葉の個数にまず違いがありますし、小胞子錐の数も木によって多かったり少なかったりします。こうした違いには、環境だけでなく遺伝的な影響もあると考えられています。

雄花の中では9月下旬頃から花粉が作られ始め、色も次第に黄褐色へと変化していきます。そして、冬を越え、暖かくなり始めると花粉を飛ばすようになります。風によって花粉は雌花へと運ばれますが、被子植物とは異なり針葉樹の受精はとてもゆっくりとしていて、スギでは受粉から受精まで実に3ヶ月ほどかかり、成熟した種子ができるのは秋頃です。雄花が作られ始めて一年以上かかるのです。スギの直径3cmほどの球果には種子が50〜70個ほど詰まっていて、1つ1つは5〜6mm程度です(写真2)。「雄大」なスギも、ごく小さな花粉の長い旅を経た小さな種子から始まり、その世代を生き、次の世代を作り出していくのです。

(”花”の定義には諸説ありますが、わかりやすくするため、ここでは裸子植物のスギにも花という言葉を用いました)。

 

(樹木分子遺伝研究領域 伊原 徳子)

 

写真1:8月のスギ雄花

写真1:8月のスギ雄花(木ごとに個性がみられます)

 

写真2:7月の球果(未熟な種子が詰まっています)

写真2:7月の球果(未熟な種子が詰まっています)


 




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