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更新日:2018年2月1日

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自然探訪2018年2月 木曽ヒノキ

木曽ヒノキ

ヒノキは日本の代表的な常緑針葉樹の1種です。木材の色が美しく、芳香が良く、強度も強く、湿気にも強く、加工がしやすい、という性質を持ち、古代語で「ヒ」という音は「良い」を意味するため、ヒノキは「良い木」という意味であるという説があるほどです。法隆寺の建築材として用いられたように、ヒノキは日本家屋の代表的な建築材として、あるいは諸道具の材料として、いつも私たちのそばにありました。「檜舞台(ひのきぶたい)」、「総桧造り(そうひのきづくり)」、「檜皮葺(ひわだぶき)」、聞いたことがありますね。

ヒノキ科ヒノキ属は世界に6種ありますが、いずれも海岸線から250km圏内に分布していることから、意外ですが、海洋と深いつながりのある樹木であるようです。日本のヒノキ属にはヒノキとサワラの2種があります。今日、ヒノキの天然木を多く観察できる場所は長野県木曽地方と岐阜県東濃地方となります。これらの地域で産出された天然のヒノキ材は、「木曽ヒノキ」と呼ばれています。写真1のように年輪が密であることが特徴のひとつです。

木曽ヒノキの森林が分布する標高のうち、350mから650mは気候学的に暖温帯に属します。本来、常緑広葉樹林が分布する標高ですが冬季が寒冷であるため生育できず、代わりにヒノキや落葉広葉樹、ツガの混交林が出現します。さらに高い標高650m~1,500mの冷温帯は、本来、落葉広葉樹林が成立する場所です。しかし木曽地方の冷温帯の山地は、年間降水量が2,000mmを超える多雨・湿潤な場所で、かつ火山起源の酸性火成岩の分布域と重なっています。地面には乾性・湿性のポドゾル土壌が形成されます。この土壌は強酸性なうえ地力が痩せているため、落葉広葉樹種にのみ優占されることなく、ヒノキなど常緑針葉樹種が混交したり、優占したりできると言われています。

木曽地方にはヒノキや落葉広葉樹種などの混交林が分布していましたが、木曽ヒノキが有用であるがゆえに、人間がわざとヒノキ以外の樹木を伐採して除いてきた歴史があります。このため、現在見られる天然林の多くがヒノキの純林になっています。写真2と3は木曽地方の代表的なヒノキ美林:赤沢自然休養林と油木美林で、ヒノキ大木が林立する姿が清々しく見えますね。

安土桃山時代から伐採され続けてきた木曽ヒノキですが、その資源量は再生と減少を繰り返してきました。現在も神社仏閣など日本の大切な文化財の修復に欠かせない素材であるため、今後も木曽ヒノキを増加、維持してゆくことが、地域や関係者の大きな課題になっています。

 

(森林植生研究領域 星野 大介)

写真1:木曽ヒノキの断面
写真1:木曽ヒノキの断面

写真2:赤沢自然休養林
写真2:赤沢自然休養林

写真3:油木美林
写真3:油木美林

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