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更新日:2019年3月1日

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自然探訪2019年3月 アガティスの森

アガティスの森

マツやモミなど松ぼっくり(球果)をつける樹木を球果類とよびます。寒い地域でよく見られる印象があるかもしれませんが、熱帯にも球果類が存在します。私達が研究をおこなっているボルネオ島(マレーシア、サバ州)にも数種類の球果類が分布していますが、そのなかでもナンヨウスギ科のアガティス(ナギモドキ属)は樹高40m程度に達する高木です(写真1)。アガティスは東南アジアからオーストラリア、ニュージーランドなどに分布しています。日本では、長崎市出島町にデジマノキとよばれる、県の天然記念物に指定されているアガティスがあります。長崎県のホームページによると、この木は幕末期にオランダ人によってインドネシアから持ち込まれたものだということです。

球果類には針葉樹が多く含まれていますが、葉の形は必ずしも針葉ばかりではありません。アガティスの葉はへん平で、葉脈が平行にはしっています(写真2)。神社の森などでみられるナギをご存知の方は想像がつきやすいと思いますが、ナギの葉とよく似ています。アガティスの球果はボールのような形で、ピンポン玉よりやや大きいくらいです。大きくなると樹皮はうろこ状にはがれます。アガティスは家具材などとして日本でも利用されており、家具店やホームセンターでもみかけます。

ボルネオ島でアガティスをはじめとする球果類がみられるのは、主に標高の高い山地や、低地でも土壌の養分に乏しい場所です。アガティスの森の地面を掘ると、白い層が出てきます(写真3)。これは分解が進みにくい落葉や植物の根から出てくる酸の影響で土壌中のミネラルが失われ漂白された状態です。この作用がさらに進むと白い層の下に鉄やアルミなどを含む黒い層が出現し、ポドゾルとよばれる土壌となるのですが、この場所ではまだ十分に発達していないようでした。このように、アガティスは広葉樹が優占できないストレス環境でたくましく生育しています。私達の調査地のアガティスが優占する森では、周辺の他の樹種が優占する森とくらべて生育する球果類の種数が多い傾向にありました。アガティスの森は近縁の球果類にとっても生育に適した環境なのかもしれません。

私達がボルネオ島の現地調査で滞在する山小屋のすぐ裏には巨大なアガティスがあります(写真4)。現在は撤去されていますが、以前はハシゴで登ることができました。樹上からみるアガティスの森の眺めは壮観なものでした。山小屋に滞在中、現地スタッフが時々、「君たちは外国人だからここの霊がみえなくていいね」という趣旨の話をしてきます。「自分たちは科学者だから霊は信じてないよ」などと答えたりしますが、アガティスの精霊に見守られていると思えば、自然に対する畏敬の念をもって現地調査に臨んでいこうという気になります。

 

(森林植生研究領域 宮本 和樹)

写真1:標高約1000 mの熱帯山地に生育するアガティス1 写真1:標高約1000 mの熱帯山地に生育するアガティス2
写真1:標高約1000mの熱帯山地に生育するアガティス

写真2:アガティスの球果と葉
写真2:アガティスの球果と葉

写真3:アガティスの森の土壌断面
写真3:アガティスの森の土壌断面

写真4:調査地の山小屋とその裏にあるアガティス(左) 写真4:調査地の山小屋裏にあるアガティスの樹上の様子(右)
写真4:調査地の山小屋とその裏にあるアガティス(左)と樹上の様子(右)

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