今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2019年7月 ドングリ
更新日:2019年7月3日
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ドングリは、コナラ、クヌギ、アカガシといったブナ科コナラ属樹木(ナラ類、カシ類)の種子の総称です。秋には、身近な雑木林でもたくさんのドングリを見かけるでしょう。クマやサル、カケスなど森林に生息する多くの動物にとってドングリは貴重な食糧ですが、特にアカネズミなどの野ネズミは秋に大量のドングリを集め、食べることで知られています。しかし、野ネズミは見つけたドングリを全てその場で食べるわけではありません。多くのドングリを落ち葉の下や土の中に隠し、餌が少なくなる冬に備えます。このような行動を「貯食」といいます。冬になると、野ネズミは森のあちこちに隠したドングリを探します。しかし、すべてのドングリを見つけられるわけではありません。虫に食べられたり、隠し場所を忘れてしまったり・・・忘れられたドングリは、うまくいけば運ばれた場所で芽生え、さらにうまくいけば大きく育ってまたドングリを実らせます。自分では移動できない樹木は、野ネズミの力を利用することによって親木から離れた場所に子孫を残すことができるのです。
「ドングリの背比べ」と言いますが、同じ種類であっても、ドングリの性質は一つ一つかなり異なります。2007年に岩手県滝沢市の森林で約10000個のコナラのドングリを調べたところ、ドングリの重さには0.1~4.5g、タンニン含有率には0.1~34.5%と大きな違いがあることが分かりました。タンニンとは、植物に含まれるポリフェノールの一種で、お茶や赤ワインなどにも含まれている渋みの成分です。動物がタンニンを多量に摂取すると、消化率の低下や腎臓や肝臓への損傷が生じることが知られています。そのため、動物はタンニンを多く含む食物をあまり好みません。
このように多様なドングリがある中で、野ネズミはどのようなドングリを選んで利用するのでしょうか。野外でのアカネズミの行動を調べたところ、大きくてタンニンの少ないドングリほど食べられやすいことが分かりました。それならば、小さくてタンニンの多いドングリばかりを実らせた方が、多くのドングリを生き残らせることができそうに思えます。それなのに、なぜ、大きなドングリやタンニンの少ないドングリが存在するのでしょうか。
実は、小さいドングリは野ネズミには食べられにくいけれど、芽生えも小さくなってしまうため、光を巡る植物同士の競争では不利になります。また、タンニンを多く含むドングリには、植物の成長にとって重要な炭水化物などの他の成分が相対的に少なくなってしまうというデメリットが存在します。このように、どんな性質のドングリが有利になるかは状況によって変化すると考えられます。様々な状況に対処できるよう多様なタイプのドングリを実らせるのが、コナラの木にとって最も好都合なのでしょう。
(野生動物研究領域 島田 卓哉)
写真1:ドングリの背比べ
写真2:ドングリを食べるアカネズミ
写真3:ドングリをくわえて運ぶアカネズミ
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