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更新日:2020年5月1日

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自然探訪2020年5月 坪毛沢木堰堤群

坪毛沢木堰堤群

みなさんが山道を通っていると、渓流に設けられている小さなダムのようなものを見かけることがあります。それは通称で治山ダムとも呼ばれる「治山堰堤(ちさんえんてい)」かもしれません。

治山堰堤には次の二つの役割があり、どちらか一方を担っています。一つは斜面崩壊が発生したときに流下する土砂を堰堤(えんてい)の上流側に留め、下流に被害を及ぼさないようにする役割です。これを担う堰堤は沢の出口付近に設けてあり、普段、堰堤の上流側には土砂が溜まらないようにします。もう一つは、上流側での山腹崩壊を防ぐ役割です。これを担う堰堤は沢の中の必要な場所に設けられ、堰堤の上流側は常に土砂で埋まっているようにします。これは、川底を高くすることで山腹斜面の基部が安定し、その結果、山腹崩壊の危険性が低くなり、流出土砂の発生を防ぐのです。

青森県五所川原市の飯詰山国有林にある坪毛沢(つぼけさわ)はその昔、豪雨による山腹崩壊を繰り返し、下流に被害を与える暴れ沢として恐れられていました。そのため大正5年~昭和33年の間に11基の木製治山堰堤が設けられました。これらは「坪毛沢木堰堤群」と呼ばれ、「後世に伝えるべき治山~よみがえる緑~」に選ばれています。当時、コンクリート堰堤に必要な硬い石材を現地で調達できず、また資材を搬入する道が無かったため、現地のヒバ被害木を用いて設けられました。

スギは植栽されてから20年ほど根系の発達が不十分なため、山腹崩壊を防ぐ力が強くありません。そのため、根系が十分に発達するまでの間、11基の木製治山堰堤には、山腹崩壊防止機能を補強する役割がありました。現在では、坪毛沢の山腹斜面は立派なスギで覆われています。それは、まだスギが小さかった時期に山腹崩壊が発生しなかった結果です。大正5年に設けられた木堰堤の中には、すでに流亡したものや、高さ数10cmの部分しか残っていないものもあり、坪毛沢の木堰堤群はその役割を終えつつあります。

(森林防災研究領域 玉井 幸治)

写真1:2号木堰堤(大正5年施工)
写真1:2号木堰堤(大正5年施工)
高さ数10cmしか残っていません。

写真2:3号木堰堤
写真2:3号木堰堤(昭和32年設置)

写真3:坪毛沢木堰堤群を紹介する看板
写真3:坪毛沢木堰堤群を紹介する看板

 

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