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更新日:2021年6月1日

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自然探訪2021年6月 スギノアカネトラカミキリとトビクサレ

森林害虫による被害、という言葉を聞くと皆さんはどのような光景を思い浮かべるでしょうか。一般にはマツ枯れやナラ枯れのような、山林でたくさんの木が枯れていく、そんな樹木の急激な変化を想像する方が多いと思います。

でも、林業関係者以外ではほとんど目に触れることなく、ひっそりと被害を拡げている森林害虫もいます。材質劣化害虫と呼ばれるグループで、彼らは幹の内部に入って生育することから、材の変色や腐れの原因となります。樹木の葉を食べることもなければ、枯らしてしまうこともないのですが、木を伐倒して初めて被害が分かることから、美しい木材を利用したい人間にとってはとても厄介な昆虫といえます。

その代表的な昆虫がスギノアカネトラカミキリです。成虫は体長1.2cm程度(写真1)で、北海道南部から本州、四国にかけて分布し、主にスギやヒノキ、ヒバなどで被害が発生しています。本種による材の食害や変色は、枯枝のついた節を起点に飛び飛びに発生するのでトビクサレと呼ばれます(写真2)。また地域によってはアリクイとも言われます。

枯枝や樹幹内で越冬した成虫は春から初夏にかけて脱出し、昼行性で訪花性があり、白~黄色の樹木の花序に集まることが知られています。卵は生立木の枯枝の粗皮下に産みつけられ、ふ化した幼虫は枯枝の中を食い進んで幹に入り(写真3)、節の周りを食害することでトビクサレ被害を発生させます。数年かかって成長した成熟幼虫は、秋冬にかけて蛹から成虫になって越冬し、翌春に生立木から脱出するという生活を繰り返します。温暖な地域では産卵されてから2年後に成虫が発生しますが、寒冷な地域では何年もかかってゆっくり成長します。被害は伐期までの長い期間、幹全体に蓄積されていくので、木材の商品価値が著しく損なわれることになります。

トビクサレ被害を回避するには、枝打ちが最も効果的です。新しい枯枝では幼虫はまだ樹幹部には穿孔していないので、実際には2~3年毎の枯枝打ちでトビクサレ被害を低く抑えることができますが、それ以外には防除法があまりなく、訪花性を利用した誘引成分や、構造が明らかになっている雄性フェロモンによる誘引試験のほか、殺虫性薬剤の樹幹注入などが試されてきましたが、防除法として実用化するためにはさらなる研究が必要です。

 

(森林昆虫研究領域 衣浦 晴生)

写真1:スギノアカネトラカミキリ
写真1:スギノアカネトラカミキリ
左:メス成虫 右:オス成虫

写真2:トビクサレ被害
写真2:トビクサレ被害

写真3:スギノアカネトラカミキリの坑道
写真3:スギノアカネトラカミキリの坑道。
枯れ枝から食い進み主幹部を食害する。

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